2019 年 11 巻 1 号 p. 56-59
症例の概要:患者は70歳代の男性.上顎全部床義歯の脱落による咀嚼障害を主訴に来院した.上顎義歯人工歯および下顎残存歯には,過大な咬合力に起因すると考えられる過度な咬耗が認められた.下顎臼歯部には全部金属冠を,上顎全部床義歯には硬質レジン歯を使用し,全顎的な補綴歯科治療を行った.
考察:上下顎に対し意図的に耐摩耗性の異なる歯科材料を用いて上顎義歯人工歯の咬耗を許容することにより,咬合力の分散が可能となり,上顎顎堤吸収の抑制および下顎残存歯の保存が実現できたと推察される.
結論:咬耗の進行が著しい患者に対し,修理が容易な義歯人工歯の咬耗を許容することにより,顎口腔機能の維持安定を達成することができた.