症例の概要:患者は初診時69歳の女性,上下顎全部床義歯装着に伴う咀嚼困難と審美障害を主訴に来院した.機能的・審美的要求に応じ3回の義歯製作・装着を約7年間にわたり行った.その都度,多軸診断プロトコル(OHIP-J54,精神心理学的状態),咀嚼スコアおよび患者満足度に関して,使用中の義歯との比較および装着後の術後を評価した.本症例では,無歯顎補綴治療において多軸診断プロトコルを長期間継続的に活用したので報告する.
考察:初診時の主訴に対する治療においては,全評価項目において改善傾向が認められた.一方,再来院時の主訴に対する治療では,治療直後は使用中の義歯と比較して顕著な改善は認めないものの,使用期間の延伸につれて改善することが認められた.また,精神心理学的状態は義歯装着後1~3カ月経過時の状態よりも,1~2年経過時において悪化する傾向が認められた.それと同時に,OHIP-J54のサブスケールにおいても“精神的不快感”や“心理的困りごと”が経時的に悪化する傾向が認められ,義歯再製作の動機となっていることが推測された.
結論:精神心理学的に内在的な問題を抱えていることが疑われる患者における初診から3回にわたる義歯の製作・装着経験から,多軸診断プロトコルの継続的な実施の重要性が示された.