日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
Print ISSN : 1883-4426
ISSN-L : 1883-4426
13 巻, 1 号
令和3年1月
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
依頼論文
◆企画:誌上シンポジウム「デジタル技術は補綴歯科治療をどこまで変えるか?」
  • 小川 匠, 井川 知子, 木原 琢也, 伊藤 崇弘, 重本 修伺
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻1 号 p. 5-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

     近年ではデジタル技術の発展により,さまざまなCAD/CAMシステムにおけるバーチャル咬合器が存在する.従来の咬合器は,本来補綴学において間接法による生体に調和した補綴装置の製作に必要不可欠なものであり,これまで多くの咬合器が実用化されてきた.本稿ではバーチャル咬合器を従来の咬合器の種類(平線咬合器,平均値咬合器,半調節性咬合器,全調節性咬合器)に当てはめることで,バーチャル咬合器の特徴とその可能性を探る.また,われわれが開発を進めている次世代バーチャル咬合器の構成(高精度三次元再構築画像,高精度顎運動測定器)とその有用性について述べる.

  • 近藤 尚知, 小山田 勇太郎
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻1 号 p. 13-21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

     口腔インプラント治療における画像診断の重要性は疑う余地もなく,2000年代初頭には情報工学(IT)が導入され,画像診断を立体画像で行うようになった.そして,単なる画像診断にとどまらず,その立体画像上で手術シミュレーションを行い,同時に補綴装置の設計も行うことも可能となっている.さらには,シミュレーションしたインプラントの埋入ポジションを口腔内に再現するためのサージカルガイドの作製をCAD/CAMシステムで行うようになり,手術当日に補綴装置装着まで行う即時修復のシステムも確立されている.さらには,サージカルガイドを使用しないでドリルと顎骨の位置関係をモニター上に投影することのできるダイナミックナビゲーションも開発され,インプラント治療のIT化はより深化するところとなった.そして,新たなステージとして,ロボット手術の開発が進められている.現状では,ロボット手術の臨床応用という段階ではないが,PCのスペックの向上とソフトウェア開発次第で,急速な発展も期待できる分野である.

  • 西山 貴浩
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻1 号 p. 22-27
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

     歯科のさまざまな領域でデジタル化が進み,安心安全に処置を行いかつ治療の完成度を高めることが可能となってきた.特に,複数の診療科にわたり横断的に検討することで,新たな展開を進めるいわゆるインターディシプリナリーアプローチはデジタルと相性が良いと考えられる.われわれが開発した統合シミュレーションソフトウェアは,インプラント,矯正歯科,補綴歯科,口腔外科にわたるインターディシプリナリーアプローチを成功に導くためにシミュレーションデータ情報を,歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士などの医療従事者間で共有することが可能である.今回は,ソフトウェアの機能について紹介する.われわれは,今後も歯科業界の一助になるツールを研究開発し,提供していきたいと考えている.

◆企画:誌上シンポジウム「新しい医療技術の展開」
  • 山口 泰彦, 三上 紗季, 前田 正名, 斎藤 未來, 後藤田 章人
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻1 号 p. 28-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

     睡眠時ブラキシズム(SB)は,さまざまな歯科疾患のリスクファクターとなることが危惧され,その治療,管理は歯科臨床における重要な課題である.SBの治療,管理には的確な診断,評価が不可欠であり,歯科臨床への正確かつ簡便な検査法の開発導入が切望されてきた.2020年4月にSBに対する睡眠時筋電図検査が保険収載されるに至った.ウェアラブル筋電計を用いた睡眠時筋電図検査の日常臨床への導入と保険収載は,客観的指標に基づいたテーラーメイド診療の実現など,歯科医療の質の向上をもたらすものと考えられ,その革新的効果が期待される.また,ウェアラブル筋電計は,幅広い領域での研究や臨床での活用の可能性も有している.

  • 髙石 佳知, 藤田 拓男
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻1 号 p. 34-41
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

     歯槽骨は,骨粗鬆症や生活習慣病等の非感染性疾患による全身因子や,歯周病や過度なメカニカルストレスなどの局所因子により影響を受ける.しかし,これら歯槽骨の病態はこれまで簡便に診断することが難しく,放置されてきた.ボーンライトによる歯槽骨密度診断方法は,定量的診断ができ,歯槽骨減少症と歯槽骨硬化症を診断できる.今まで診断の難しかった全身の骨低下をきたす非感染性疾患による歯槽骨吸収,歯や補綴物のトラブル,薬剤関連性顎骨壊死(MRONJ)等の予兆をいち早く捉え,歯の延命に効果的で,安心・安全な歯科治療を可能にする.

原著論文
  • 七田 俊晴, 佐藤 裕二, 北川 昇, 松村 圭祐, 杉山 一朗
    2021 年13 巻1 号 p. 42-48
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    目的:義歯装着者の咀嚼機能を定量化することは,義歯補綴の術前の検査および術後の経過を評価する際に重要である.当講座では診療において咀嚼能力を測定する際に,直接的検査法の一つである摂取可能な食品から義歯装着者の咀嚼機能を総合的に評価する佐藤らの咀嚼機能評価表(咀嚼スコア20)を用いた調査を行ってきた.しかし,この方法は食品の項目が多く,記入に時間を要するため,更なる改良が必要であると考えた.

     本研究は食品を10種類に厳選した改良型咀嚼能率判定表(咀嚼スコア10)を開発し,その有効性を検討することを目的とした.

    方法:被験者は上下全部床義歯装着者34名とした.咀嚼スコア20に「食べたことがない」,「嫌いである」の2項目を追加した.咀嚼指数で分類した5グループの中から,2種類の食品を選択した.嫌いな人が多い食品を除外し,咀嚼スコア10を試作した.さらに,咀嚼スコア20と咀嚼能率(グルコセンサー®),咀嚼スコア10との相関関係を検討した.

    結果:咀嚼スコア10と咀嚼スコア20との間に強い正の相関が認められた(r=0.97,p<0.01).また,咀嚼スコア10は咀嚼能率(r=0.57,p<0.01)との間にも咀嚼スコア20(r=0.62,p<0.01)と同程度の有意な相関を認めた.

    結論:以上より,今回作成した咀嚼スコア10は臨床における患者の咀嚼能率を以前よりも簡便に行うことができる可能性が示唆された.

症例報告
  • 川西 克弥, 會田 英紀, 朝廣 賢哉, 山崎 真郎, 菅 悠希, 竹田 洋輔, 佐々木 みづほ, 豊下 祥史, 村田 幸枝, 長澤 敏行, ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 49-57
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は初診時69歳の女性,上下顎全部床義歯装着に伴う咀嚼困難と審美障害を主訴に来院した.機能的・審美的要求に応じ3回の義歯製作・装着を約7年間にわたり行った.その都度,多軸診断プロトコル(OHIP-J54,精神心理学的状態),咀嚼スコアおよび患者満足度に関して,使用中の義歯との比較および装着後の術後を評価した.本症例では,無歯顎補綴治療において多軸診断プロトコルを長期間継続的に活用したので報告する.

    考察:初診時の主訴に対する治療においては,全評価項目において改善傾向が認められた.一方,再来院時の主訴に対する治療では,治療直後は使用中の義歯と比較して顕著な改善は認めないものの,使用期間の延伸につれて改善することが認められた.また,精神心理学的状態は義歯装着後1~3カ月経過時の状態よりも,1~2年経過時において悪化する傾向が認められた.それと同時に,OHIP-J54のサブスケールにおいても“精神的不快感”や“心理的困りごと”が経時的に悪化する傾向が認められ,義歯再製作の動機となっていることが推測された.

    結論:精神心理学的に内在的な問題を抱えていることが疑われる患者における初診から3回にわたる義歯の製作・装着経験から,多軸診断プロトコルの継続的な実施の重要性が示された.

専門医症例報告
  • 坂元 麻衣子
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 58-61
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:85歳男性.「入れ歯の外側に食べ物がたまる.食事時の痛み,入れ歯使用時に会話がしにくい」を主訴として来院した.医療面接,診察・検査後,「上下顎全部床義歯の不適合,義歯床研磨面形態不良に起因した咀嚼障害と発音障害」と診断した.口腔衛生状態の改善,顎堤の健全化を図り,上下顎金属床義歯を装着した.

    考察:パラトグラム法による発音機能の改善,義歯床翼部形態と周囲筋の調和により,床研磨面の食渣の消失を認めた.咀嚼スコアは初診時39.4,新義歯装着1か月後81.1になった.

    結論:義歯装着3年が経過し,審美的,機能的に満足を得た.患者の健康増進に寄与できたものと考える.

  • 添島 正和
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 62-65
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:37歳,女性,永久歯萌出時からコンプレックスであった上下前歯部の変色による審美不良を主訴に来院した.術前検査でアンテリアガイダンスの喪失を認めたため咬合調整と抜歯を行った後, 最終補綴装置としてポーセレンラミネートベニアを装着した.

    考察:補綴装置装着後10年経過しているが,歯周組織の炎症・歯の変色は認められず,患者の高い満足が得られた.デンタルエックス線検査においても異常は認められない.

    結論:上下前歯部に対しアンテリアガイダンスを付与したポーセレンラミネートベニアを用いることで,審美性と咀嚼機能が著しく回復するとともに,ポーセレンラミネートベニアの長期的な予知性の高さが示唆された.

  • 山田 康友
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 66-69
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は67歳の男性.上下顎遊離端欠損による咀嚼困難を主訴に来院.睡眠時ブラキシズム(sleep bruxism:SB)を含む過大な咬合力に対応するため,補綴学的に配慮したインプラント治療を行った.

    考察:補綴治療終了後,現在まで約5年間経過しているが,残存歯および補綴装置に問題は認めない.インプラントおよび補綴治療により,咀嚼機能の改善と残存歯への負担軽減を図ったことが,良好な経過と高い患者満足度につながったと考えられる.

    結論:本症例では,SBを含む咬合力が強い患者の遊離端欠損部に対し,力に配慮したインプラント補綴治療を行うことで,主訴の改善が可能になった.

  • 池谷 賢二
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 70-73
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は82歳男性で,上顎臼歯部の動揺と下顎臼歯部欠損による咀嚼困難を主訴に来院した.歯周基本治療によりプラークコントロールの改善に努め,保存不可能な歯の抜去を行った.残存歯にプロビジョナルレストレーションを欠損部へは暫間部分床義歯を装着した.咬合の安定後,コーヌステレスコープデンチャーを用いた最終義歯を製作した.装着3年後,患者は機能的,審美的に満足し良好に経過している.

    考察:コーヌステレスコープデンチャーにより,リジッドサポートが得られたことで良好な経過が得られたと考えられる.

    結論:高齢患者の欠損に対し,コーヌステレスコープデンチャーは審美的,機能的に高い満足度が得られる有効な処置である.

  • 板東 伸幸
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 74-77
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:61歳女性,左側臼歯部の歯肉腫脹のため咀嚼できないことを主訴に来院した.上下顎両側臼歯部に歯の欠損があり,上顎左側犬歯,第二小臼歯は歯根が破折していた.臼歯部欠損による咀嚼障害と前歯部不良補綴装置による審美障害の解決のため欠損部のインプラント補綴治療を行った.

    考察:大臼歯の欠損により,犬歯・小臼歯に加わった歯根破折を誘発する過剰な咬合力に対し,両側臼歯部咬合による咬合力の適切な配分,犬歯誘導による過剰な側方力の緩和を図ることにより,長期的に安定した歯周組織の状態が得られたと考える.

    結論:片側遊離端欠損のインプラント義歯治療では歯周組織に対する配慮とプロビジョナルレストレーションによる評価が必要である.

  • 久留島 悠子
    2021 年13 巻1 号 p. 78-81
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は67歳女性,上下無歯顎で,下顎義歯の維持不良を主訴に来院した.下顎全部床義歯の機能時維持不良による咀嚼障害と診断し,新義歯を製作する上で,機能時に十分な辺縁封鎖が得られるような適切な床形態を付与することで咀嚼障害の改善を図った.

    考察:下顎前歯部は,顎堤が著しく吸収し,菲薄な軟膜で覆われている状態で,旧下顎義歯の前歯部舌側床縁の最深部がオトガイ棘の手前であった.新義歯ではオトガイ棘を完全に被覆したことで,機能時にも確実な辺縁封鎖が得られ,維持の改善が認められたと考えられる.

    結論:下顎全部床義歯の床辺縁の位置ならびに形態は,義歯の維持を確実に行ううえで非常に大切な要素の一つであると言える.

  • 西山 弘崇
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 82-85
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は62歳の男性,咬耗による審美不良を主訴に来院した.睡眠同伴者の指摘や起床時の咀嚼筋痛を認めたため,睡眠時ブラキシズムがその原因として考えられた.

    考察:即時重合レジンプレートを用いて咬合挙上を行い,プロビジョナルレストレーションに置換,フルマウスリハビリテーションを行うことで,審美的に患者満足を得ることができた.睡眠時ブラキシズムに対しては,夜間のスプリント装着を指示することで,歯冠補綴装置の破折は認めなかった.

    結論:咬耗による審美障害の改善に,咬合挙上およびフルマウスリハビリテーションは有効であった.

  • 久保 慶太郎
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 86-89
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:74歳男性.下顎総義歯の動揺と咬合時の義歯床下粘膜の疼痛を主訴に来院した.下顎は著しい顎堤吸収を認めた.下顎総義歯の咬合状態は不良で,口角牽引時に動揺を認めた.下顎総義歯の咬合接触状態および床研磨面形態,人工歯の排列位置の不良による疼痛・咀嚼障害と診断し,上下顎ともに新義歯を製作することとした.下顎義歯にはフレンジテクニックと軟質リラインを行った.

    考察:本症例は,フレンジテクニックによる周囲可動組織との調和と軟質リラインによる緩衝効果により,良好な結果を得ることができたと考える.

    結論:下顎顎堤吸収が著しい無歯顎患者にフレンジテクニックと軟質リラインを用いて,疼痛と咀嚼障害を改善することができた.

  • 佐藤 奈央子
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻1 号 p. 90-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/30
    ジャーナル フリー

    症例の概要:61歳女性,上顎右側歯原性粘液腫摘出術後に口腔と鼻腔の交通および臼歯部の咬合支持欠如を認め,治療用顎義歯を装着し,咀嚼・嚥下・構音機能回復を図った後,最終補綴装置としてインプラント支持顎義歯を装着した.

    考察:早期の治療用顎義歯装着により口腔機能が回復し,歯科治療に対するモチベーションの向上が図られた.上顎はインプラント支持顎義歯による,下顎は矯正治療後にブリッジによる補綴処置を行ったことにより,咀嚼能率の向上と口腔関連QOL の改善が達成できた.

    結論:上顎欠損症例では,最終補綴に先立ち,治療用顎義歯により口腔機能の回復を図ることが重要であり,また,インプラント支持顎義歯は有効な手段である.

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