抄録
【目的】
中鎖脂肪(MCT)は長期間摂取後の体脂肪蓄積の抑制効果のほか、食後の血中脂質および血清レムナントリポ蛋白の上昇も抑制するなど、生活習慣病対策の面で利用が期待される油脂である。焼菓子には油脂が多く用いられ、その食感形成には欠かせないが、MCTで代替した場合焼菓子独特の物性発現にどのような影響を与えるのか、対照として長鎖脂肪(LCT:なたね油)を用いて、主に内部組織構造の面から比較検討した。
【方法】
焼菓子の配合割合は、小麦粉100g、ベーキングパウダー2g、上白糖50g、油脂+水48g(油脂と水の比は3水準を設定)、卵黄3gとした。生地および製品の内部構造はアセトンとエーテルで脱脂し金を蒸着後、走査型電子顕微鏡(日立S-530)で200倍にて観察した。焼成時の形状変化、製品の形状、油じみの測定、定速圧縮破断試験、官能評価を行なった。
【結果】
生地の内部組織構造においては、MCTとLCTで差異は認められなかったが、製品については顕著な相違が認められた。LCT焼菓子の内部は気泡を包んだ跡が膜状組織として観察されたが、MCT焼菓子には気泡の跡は少なく、空隙のない密な構造に観察された。内部組織構造の相違は焼菓子の膨化、破断特性、官能評価に反映されており、MCT焼菓子はLCT焼菓子に比して横広がりは小さく、膨化率も小さく、破断応力・破断エネルギーともに大きく、硬くて砕けにくい食感評価であった。パンの調製時にMCTがグルテンに影響することを示唆する報告があり、この面からの検討が今後の課題と考える。