抄録
【目的】食品中におけるタンパク質やでん粉とリン脂質間の相互作用に関する研究の代表的な材料は小麦粉であり、リン脂質との相互作用については、内因性外因性問わず、ドウ形成状態下で多くの研究がなされてきている。
今回我々は、ドウの形成が抑制された小麦粉懸濁液を用いて、リン脂質とその他の成分との相互作用を知る目的で、先ずペースト化の過程におけるリン脂質量と組成の挙動について調べた。
【方法】試料は市販薄力粉を購入して使用した。温度制御と均一な攪拌が可能なRVA装置を用いて、試料を調製した。即ち水24gに小麦粉6gを加え、40℃で5分間保ち、1分間に4℃上昇させ、60℃、70℃、80℃あるいは90℃でそれぞれ0分あるいは5分間保持した。それぞれの温度で保持した後、直ちに5gを遠沈管に秤量し、水飽和ブタノールを用いる方法で脂質の抽出を行った。室温で3回抽出し、続いて90℃で3回抽出を行った。それぞれの粗脂質は少量のクロロホルムに溶解し-80℃に保存した。TLCよる各リン脂質の分離、およびリンの定量は常法に従った。
【結果】薄力粉から直接抽出した場合や小麦粉懸濁液を40℃で5分加温した場合は、既知のようにリン脂質量は常温抽出より熱抽出で高かった。しかし、60℃、70℃、80℃では、逆に常温抽出の方が熱抽出よりも高くなった。ところが、90℃の0分では60-80℃の場合と同じであったが、90℃で5分間保持した場合は、逆に粉からの抽出の時と同様に熱抽出の方がリン脂質量が高くなった。特に、リゾリン脂質が同じような挙動を示した。このことは、薄力粉のペースト化の過程で、リン脂質の存在状態も変動していること示している。