抄録
【目的】小腸上皮細胞は互いにタイトジャンクションによって密着し、異物の体内への侵入を阻止するバリア機能を有するが、酸化ストレスが過剰に加わるとその機能が低下し、様々な疾病を引き起こす可能性がある。これまでに、我々は、野菜が酸化ストレス(H2O2)による小腸上皮細胞のバリア効果の低下を防ぐことを報告してきた。本研究では、この野菜の効果が、H2O2消去能に起因するかどうかを検討した。
【方法】野菜のH2O2消去能を測定するために、生もしくは茹で加熱、電子レンジ加熱した野菜(アスパラガス・キャベツ・トマト・タマネギ)の人工消化処理液(試料)とH2O2を1時間反応させ、H2O2残存量を測定した。また、分化させたCaco-2細胞を野菜試料存在下で3日間培養し、野菜試料除去後、H2O2を添加し経上皮膜電気抵抗値(TER)を経時的に測定した。
【結果】いずれの野菜試料にも顕著なH2O2消去能は認められなかった。しかし、Caco-2細胞に、茹で加熱もしくはレンジ加熱したアスパラガス試料を添加すると、H2O2と同時に添加した時だけでなく、添加後3日間 Caco-2細胞を培養し、試料除去後、H2O2を添加した場合にも、H2O2によるCaco-2細胞のTERの低下が抑制された。これらの結果から、野菜による小腸上皮細胞の酸化ストレス防御能は、H2O2消去能に起因せず、野菜が直接細胞に働きかけると考えられた。作用機構については今後の研究課題である。また、野菜を継続的に摂取することによって、小腸壁における酸化ストレス防御能が増強すると推察される。