抄録
【目的】 乾しいたけの調理については、その戻し方とうま味成分量等の研究が詳細になされている。一方で、乾しいたけには特有の香気が存在するが、戻し方と香気についての研究は少ない。本研究では、乾しいたけの戻し汁(だし汁)の風味に与える処理方法の影響について、SAFE法とSDE法を用いて香気成分を抽出、分析し、考察を行った。
【方法】 家庭で簡易的になされている水戻し条件として、温水(38 ℃)と熱水(70 ℃)、各々30分間を設定し、乾しいたけを浸漬した。また、春秋の水道水の温度を想定し、22 ℃で6時間浸漬したものも調製した。戻し汁をろ過してだし汁とし、未加熱の香気成分を分析するために、だし汁のジクロロメタン抽出物をSAFE(Solvent Assisted Flavor Evaporation)装置にて蒸留し、香気濃縮物を得た。加熱香気成分の分析にはSDE装置にて得た香気濃縮物を用いた。両者について、AEDA法を用いたGC/O(GCにおいかぎ分析)およびGC-MS分析を行い、香気を比較した。だし汁中のグアニル酸量はHPLCにて求めた。かんぴょうを各だし汁、しょうゆ、さとうで煮たものを試料として、官能評価を行った。
【結果】 乾しいたけのだし汁の香気主成分は含硫化合物で、dimethyl trisulfideや1,2,4-trithiolaneのFDファクターが高かった。SAFE法(未加熱だし汁)では温水浸漬に比較して、熱水浸漬のほうがFDファクターが高い傾向にあったが、SDE法(加熱だし汁)では大きな違いはなかった。一方、22 ℃、6時間浸漬のものは30分浸漬のものに比較して、香気が強く、官能評価でも乾しいたけの味、香りが最も強いと判定された。