抄録
目的:咀嚼・嚥下困難者の食事において、とろみ調整剤はテクスチャー調整が容易にできることから手軽に用いられている。しかし、これらの添加により呈味成分や香気成分が抑制されるのではないかと推察される。香りは、食欲増進・精神安定など心理的生理的効果が期待されることから、風味を損なわない調理上の工夫が求められる。今回はにおいが特徴的な“煮干し”と“わさび”にとろみ調整剤を添加した場合のフレーバーリリースを比較した。
方法:煮干しはミルで粉砕後、粒径を揃えた粉末とした。わさびは粉わさびを用いた。とろみ調整剤は原料の異なる2種類(K・T)を用いた。これらを組み合わせた以下の4試料を調整した。S(蒸留水・煮干し)、W(蒸留水・煮干し・粉わさび)、K(蒸留水・煮干し・粉わさび・とろみ調整剤K)、T(蒸留水・煮干し・粉わさび・とろみ調整剤T)に、蒸留水を加えて95℃に加温後、80℃低下時点で試料Kにとろみ調整剤を、35℃低下時点で4試料全てに煮干し粉を、3試料に粉わさびを、試料Tにはさらにとろみ調整剤を振り入れ撹拌した。直ちに4試料全てを密封し、調理科学研究員10名をパネルに5段階評点法で官能評価を行った。さらに、におい識別装置を用いて4試料のにおい成分を分別比較した。
結果:におい識別装置の結果より、とろみ調整剤を加えた試料のいずれもが煮干しのアミン系のにおいとわさびのエステル系のにおいが、煮干しとわさびのみのW試料に比べて弱く、とろみ調整剤によりにおいの発散が抑制されていることが推察された。一方、官能評価の結果では、とろみ調整剤K、T試料のいずれもがW試料に比べ、口に入れたときのにおいが有意に強いと評価された。これは、咀嚼することによりにおいが口中で強く発散されたためと考えられる。