抄録
【目的】日本には各地域に特有の行事食や郷土料理があり、家庭や地域において人から人へと伝えられてきた。しかし現代では、核家族化、外食や中食産業の発達などといった背景から、行事食や郷土料理の伝承される機会が減少している。日本の伝統的な食文化を後世に残していくためには、食文化の伝承意識の向上が必要である。そこで本研究では、三重県伊賀地域を対象とし、食文化伝承の現状を把握するともに、伝承意識に及ぼす要因を検討することとした。 【方法】まず、食文化伝承の現状を把握するために、2014年9~10月に伊賀市内の小・中学校の保護者を対象にアンケート調査を行った。質問内容は郷土料理、行事食などの喫食経験や現在の喫食状況、喫食頻度、調理状況・食べ方についてだった。合わせて食に関する慣習についても調査した。次に、伝承意識に及ぼす要因を把握するために、上記調査と同時期に伊賀市内小・中学校、高等学校の児童・生徒および保護者を対象にアンケート調査を行った。「年齢」「居住形態」「調理能力」に着目し伝承意識との関連をみた。 【結果】昭和30~40年頃に定着していた日常食や行事食の伝承率は、料理によって差はあるものの、どれも世代を追うごとに減少していた。また、食に関する慣習も伝承率が低いことが明らかになった。保護者より児童生徒の方が、伝承意識は有意に高く(p<0.01)、年齢が低いと伝承意識が高かった。1世帯家庭よりも2世帯家庭の方が、伝承意識は有意に高く(p<0.05)、核家族よりも拡大家族の方が、伝承意識が高いことが明らかになった。郷土料理や行事食を作ることが「できない」より「できる」人の方が、伝承意識は有意に高かった(p<0.05)。