抄録
【目的】においは食する前からおいしさを予測・決定させるが,においを有する化合物は非常に多く,量的に多い成分がにおいの主体にならないことや成分の組み合わせで別のにおいが生じることなどから,その評価は困難である。本研究では広島風お好み焼きのソース塗布後のにおいの変化をGC-MSおよびにおい識別装置で評価した。【方法】鉄板上でお好み焼きの表面に52g,側面に8gのソースを塗布し,2分または10分焼成した。お好み焼きを鉄板からおろした後にソースを塗布したもの,ソースを塗っていないものも調製した。お好み焼き1/4枚をサンプルバックに入れ,ヘッドスペースガスを回収し,GC-MS(SPMEファイバー,QP2010Plus,島津),におい識別装置(FF-2020S,島津)で分析した。【結果】GC-MSの結果,焼成時間が長くなるほど揮発性成分数が増加し,フラン・ フラノン類が成分数の約3割を占め,定量値でもフラン・フラノン類,ピラン類,ケトン類が増加した。組成においても,フラン・フラノン類が約40%を占め,他の成分の変化は小さかったが,テルペンは減少した。におい識別分析の結果,基準ガスとの類似度に,焼成0分と10分の有機酸系,アルデヒド系で10%以上の差が認められたが,臭気寄与には差は認められなかった。臭気指数相当値にも有意な変化は認められなかった。これらから,ソース塗布後のお好み焼きのにおいは,加熱によるメイラード反応等による成分増加によって特有の焼成感が生じていると示唆され,におい識別装置の結果からは十分に認識できる程度ではないもののにおいの質が変化することが確認された。この質の変化の小ささと,強さに変化が認められないことは,鉄板上で焼成しつつ食する広島風お好み焼きのおいしさの一要因であると考えられた。