2013 年 12 巻 2 号 p. 89-130
本稿の目的は、鋳造産業の事例分析を通じて、破壊的イノベータの視点に立脚して、ローエンド型破壊的イノベーションのメカニズムを解明することである。具体的には、フルモールド鋳造法 (FMC) を取り上げる。FMCは大型単品鋳物生産において大幅な納期短縮・費用低減が見込まれることから、1960年代、多くの日本企業が米独から技術導入した。しかし、工作機械向け量産鋳物分野にいち早く進出できたのは (株) 木村鋳造所のみであった。木村は最初、自動車プレス金型を用途としてFMCを実用化したが、その後工作機械にも用途を拡大し、従来の木型法による銑鉄鋳物市場を次第に置き換えていった。本稿ではまず、こうした破壊的工程イノベーションが鋳造産業にどのようなインパクトをもたらしたのかについて言及した上で、どのような過程を経て実現されたのか、そのメカニズムを明らかにする。最後に、なぜ木村だけが破壊的イノベーションに先乗りすることができたのか、他社はなぜ断念したのか、あるいは出遅れたのか、経路依存性およびアーキテクチャの観点からディスカッションを行う。