抄録
クリエイティブ産業は、脱工業化社会における成長産業として社会的な影響力を拡大させている。カルチュラル・スタディーズや社会学は、クリエイターによる創造的労働の不安定性について知見を重ねてきた。しかしこれらの研究は、創造的労働における文化的価値と経済的価値の追求を二者択一的に捉える傾向にある点で課題を有している。それゆえクリエイターが創造的労働を生業として継続し、実際に生活を送る在り方が看過されてきた。本稿の目的は、クリエイターが文化と経済のジレンマをいかに緩和し、創造的労働を継続しようとするのかを明らかにすることにある。プロバンドマンの表現戦略を対象としたインタビュー調査を行った結果、次の三点を明らかにした。
第一に、バンドマンは文化と経済のジレンマにおいて、裁量の縮小・コンスタントな納期に直面し、アイデンティティクライシスに陥っていた。第二に、バンドマンは主たるバンド活動と並行して、独創性を追求するべくソロ活動等に従事したり、他アーティストへの制作を請け負うことで生計の維持・スランプの打破をしたりしていた。バンドマンは表現媒体を多様化させ、文化と経済のジレンマを緩和しようとするのである。最後に、バンドマンは表現媒体を多様化させる過程で創造的労働における柔軟性を高め、ジレンマの止揚を試みていた。また職業的自認を抽象的に再構築することで、生業としての創造的労働を継続していた。
本稿の意義は、文化的/経済的価値の追求を二者択一のものとするのではなく、創造的労働によって生活を形作っていくクリエイターの観点から、彼ら/彼女らの不安定就労を再検討したことにある。本稿はクリエイターによるキャリアの継続性の内実を明らかにしていくことで、クリエイティブ産業における労働問題を検討する必要性を示唆した。