抄録
【はじめに】前十字靱帯(以下 ACL )再建術後の競技復帰は早期化している。ACL 再建術後における膝関節周囲筋の筋萎縮は早期競技復帰に大きな影響をあたえる。また術前の患側/健側比が術後の筋力回復に影響を与えるという報告もある。今回、 ACL 再建術前に開運動連鎖(以下 OKC )および閉運動連鎖(以下 CKC )での筋力評価を行い患側/健側比の比較を行い、 さらにCKC の筋出力特性について検討した。【対象および方法】対象は ACL 損傷者9人(男性2人、女性7人)であり、年齢は 22.9 ± 11.1歳である。OKCはデュアルシンパッドを装着した CYBEX NORMを用いて、健側および患側の膝関節伸展、屈曲筋群の等速性筋力測定を行った。 CKC は閉運動連鎖型評価訓練機(オージー技研特注)を用いて、健側および患側の下肢伸展筋力を測定した。この閉運動連鎖型評価訓練機はサイクロイド曲線を利用し背臥位で足部が緩やかな円弧を描く運動が可能であり、あらかじめプログラムされたスピードでアームが動くので等速性運動が行える。フットプレートを押す力(以下、足部出力)を計測するためフットプレートの下に 3 軸ロードセルLSM-B-5KNSA15(共和)を設置した。センサインタフェース PCD-300A (共和)を用いて3 方向の出力をパソコンに同時に記録し、これらの分力より実際の足部の矢状面での出力とその方向を計算で求めた。被験者は股関節、膝関節屈曲位から下肢伸展方向へフットプレートを最大筋力で蹴り続けるように指示された。運動はデジタルビデオカメラで側面から撮影し NIH Image Ver. 1.62 で解析を行った。最大足部出力値をとった時について計算より求めた出力とその方向から股、膝、足関節のモーメントを算出した。【結果】OKC における伸展筋群では健側 1.78 Nm / kg 、患側 1.31 Nm / kg であり、屈曲筋群では健側 1.02 Nm / kg 、患側 0.71 Nm / kg であった。CKC では健側 3.2 Nm / kg 、患側 2.29 Nm / kg であった。患側/健側比はOKC の伸展筋群で 0.74 、屈曲筋群で 0.74 、CKC で 0.77 であり、それぞれ有意差は認められなかった。CKC における出力方向は健側では股関節と膝関節との中間点から足部に向かって出力されており、患側では健側に比べ膝関節に近い点から足部に向かって出力されていた。【考察】OKC および CKC の結果より膝伸展筋群、屈曲筋群の筋力低下が CKC における筋出力に影響を与えると考えられる。先行研究において CKC の設定で大腿四頭筋とハムストリングの同時収縮が起こるのは股関節と膝関節に挟まれた部位から足部に向かって出力するときであることが判っている。CKC の出力方向の違いは、患側が健側より膝伸展トルクを減少させ股関節伸展筋とハムストリングをより優位に収縮させて下肢を伸展させていると考えられる。すなわち ACL 損傷患者においては膝伸展時に脛骨を前方移動させないため、よりハムストリングを使った運動を行っていると考えられる。