抄録
セメントレス人工股関節置換術(以下THA)術後の運動療法において、我々は6年前より手術側下肢を免荷せず、積極的に荷重を行うことにより、早期の歩行能力回復を図り入院期間の短縮を進めてきた。術後4週で退院としていたプログラムを3週で退院とするものに改めることとし、2001年、4月より3週間退院プログラムを導入した。今回はこの理学療法プログラム内容および施行結果について報告する。【対象】2001年4月から11月までに当院でTHAが行われたうち、再置換術を除き、術前より1本杖による歩行が自立していた35例を対象とした。1回の入院で両側手術を行ったもの4名、うち1名は同時に行った。年齢は29から74歳、平均61歳であった。変形性股関節症35関節、大腿骨頭壊死4関節。術後は2日目より離床し、疼痛の許す範囲の荷重で歩行訓練を開始した。退院時のゴールは400m以上のT字杖歩行自立、手すりを用いた階段昇降の自立、術前可能なものでは正座、爪切り動作自立である。【結果】術後、1週で8割の患者で短距離は1本杖での歩行が可能となったが、2週までは歩行量は控えめとし、2週以降、歩行量を増やし、退院時は1本杖歩行が全例自立した。脱臼の防止を考慮した正座、爪切りなどの動作を指導し、術前より可能なものは退院時、全て自立した。平均在院期間は27.2日、両側を別の日に手術した患者を除くと、平均在院期間は24.9日、術後入院期間は22.5日であった。入院期間が長かったのは術後脱臼を生じた再手術を行った1例(53日)と術前に熱発し術前待機を必要とした1例(37日)であった。これらの患者の術後1年時でのX線像では、ゆるみの兆候は全例にみられなかった。【考察】現在の術後早期の理学療法開始、荷重制限なしのプログラムでも以前と比較し、臨床的な疼痛の増悪や脱臼の増加などの問題を起こしていない。Weight Balancerで手術側の荷重量を評価すると、術後1週ではばらつきが多いが、術後3週で、ほぼ90%以上の荷重が可能となっている。またTHAは長期成績が非常に重要で、理学療法プログラムがゆるみの増加をもたらすものであってはならないが、6年前に術後の免荷を行わなくなって以降の症例で、それ以前の患者と比べ、中期的評価でX線像上の、THAのゆるみの増加は見られておらず、早期荷重は問題を起こしていない。現在の短期入院プログラムは入院前に患者に十分説明することにより、早期理学療法、早期退院について患者の不安を生じないように注意し、退院時の不満を生じないようにしている。【結論】適切な理学療法を行うことで、T字杖歩行自立を退院基準としたセメントレスTHA術後3週間退院プログラムは実行可能であった。