抄録
【はじめに】近年,各施設において在院日数の短縮と共に医療の質の向上が問われている。このような流れの中で当院においても人工股関節置換術(以下THAとする)後のプログラムにおいて早期荷重や入院期間の短縮が図られており,入院から退院後の生活に至る理学療法支援の重要性が増している。そこで今回,病棟でのADL指導方法を見直し,各期に応じた具体的なADL指導のチェックリストを作成したので報告する。【THA後の理学療法プログラム】理学療法は術後2から3日から開始し,初日は病棟で翌日より理学療法室でROM Ex,筋力トレーニング,歩行練習を開始する。歩行に関しては広範囲骨移植例を除き,骨セメント使用の有無に関わらず荷重制限なしで行い,術後約2週で病棟内杖歩行に移行し,3から4週で退院となる。広範囲骨移植例でも2から4週の免荷後,荷重量を漸増し6から8週で杖歩行にて退院となる。【ADL指導とチェックリストの内容】早期家庭復帰と安全性確保のために,THA後のADL指導のチェックリストを作成し,I.離床期(術後理学療法開始期),II.病棟歩行開始期,III.退院前の3期に分けたADL指導を行っている。離床期のチェック項目は 1ポジショニング,2脱臼予防の指導,3ベッド上起き上がり,4ベッド車椅子移乗動作,5車椅子便器移乗動作である。病棟歩行開始期のチェック項目は病室,病棟,院内での移動能力の判定を行う。病室内では洗面台や冷蔵庫などへの移動,病棟内移動ではトイレや浴室への移動,病院内移動では理学療法室までの移動,エレベータ乗降などの指導を行う。また,移動の際の転倒予防として履物はゴム底の靴に限定する,食器の運搬など限られた動作のみ車椅子を使用することなどを指導する。退院前のチェック項目は,1立位から床への立ち座りなどの床上動作,2靴下の着脱,足の爪切りなどの更衣整容動作,3入浴動作,4歩行量,脱臼予防,荷物の持ち方などの人工関節保護に関する説明,5ホームプログラムである。【考察】病棟内における早期からの歩行を中心としたADL拡大は廃用性の筋萎縮などを防止し,機能的,能力的,心理的に多くの改善が得られると考えられる。しかし,この活動性の高まりは同時に転倒や脱臼,移植骨への過剰な負荷といったリスクも高まり,再置換術の増加などを考慮するとき,一層のきめ細やかな注意と対策が必要となる。したがって,個人の能力の差を細かく判定し,それに応じた移動方法を指導できる理学療法士が関与する意義は大きいと考えられる。また,チェックリストを用いることで病棟内でのADLの把握が容易で理学療法プログラムに活かせる,スタッフ間での指導項目や内容の差を最小限に抑えられる,医師や看護師との情報交換に利用できるなどの利点が考えられる。今後、チェックリストを用いたADL指導の有効性について検討していく必要性がある。