理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: DP580
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骨・関節疾患(整形外科疾患)
左骨盤内脱分化型脂肪肉腫摘出術後左大腿神経麻痺に対する理学療法経験
股関節の安定化を中心に
*清水 宏吏狩野 光太郎町井 義和本村 清二
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抄録
【はじめに】大腿神経は解剖学的に直接外力を受けにくい走行であり、他の末梢神経に比して損傷されることは稀であるとされている。医原性あるいは圧迫などによって発生することがあるが、それらの多くは腫瘍や血腫の圧迫除去などにより軽減する不全麻痺例が多い。今回我々は骨盤内脱分化型脂肪肉腫摘出に際し大腿神経が切断され大腿神経完全麻痺となったが、股関節の安定化を中心に理学療法を行い、復職した症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。【症例紹介】57歳、男性、タクシー運転手。鼠径部の痛みのため平成12年12月に当院受診。検査の結果、左下腹部に腫瘍を指摘され他院紹介となる。平成13年3月に他院にて摘出術を受け、その後術創部形成術目的で転院。平成13年8月に退院し、歩行障害に対するリハビリテーション目的で当院外来にて理学療法開始となる。理学療法開始時、全ての動作にて左膝関節伸展位でロックし、振り出しには体幹の代償が伴う状態であった。特に歩行はT杖使用、軟性膝装具装着下で、左立脚時は膝関節伸展位・股関節軽度外転・外旋位にて支持基底面を広げた状態であった。時折膝折れが見られ、理学療法開始までに転倒を数回経験していた。筋力は大腰筋2レベル、大腿四頭筋・縫工筋・腸骨筋0レベルであった。passive ROM-Tは股関節屈曲90°膝関節屈曲140°。表在感覚は大腿神経領域で0/10であった。術創部は大腿外側面より肉皮としているため左下前腸骨棘前面の肉皮捻転部に約2cmの盛り上がりがあり、股関節屈曲制限となっている。復職は膝折れの出現等により困難となっていた。【方法】理学療法アプローチとして二関節筋を用いて膝関節のコントロールを学習することを第一に考えた。その中で効率よくハムストリングス・大腿筋膜張筋を働かせる為にはもう一方の関節、つまり股関節の安定化が必要不可欠であると考え、股関節を中心にアプローチした。初期段階として筋収縮を意識させることを主目的とした神経筋再教育および筋力増強を行い、また股関節の安定化を図る為に内旋筋群および外旋筋群を中心に進めた。開始後2週間程度で筋収縮の意識が容易になったのでclosed kinetic chain(以下CKC)で求心的外力が加わる不安定板を用いてのsettingを追加し、段階的に股関節の角度を変えて行った。次段階として動作の中でも股関節周囲の筋収縮を意識させた。股関節に安定性が出てくると、麻痺筋に変化はないが股関節屈曲やCKCにおける膝関節のコントロールも出現し、独歩でも転倒せず階段昇降もスムーズに行えるようになった。現在、復職も問題なく果たせている。【考察】動作のなかで二関節筋のCKCが筋収縮の学習により股関節の安定化が齎される方向に働き、またそれらに対して補助筋となる筋収縮を促通させたことにより、股関節屈曲における大腰筋の働きや膝関節におけるコントロールを容易に出すことが出来たと思われる。結果、動作が改善し復職に向け大きな効果を齎すことが出来たと考える。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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