抄録
<目的>今回我々は、高齢整形外科患者の下肢筋力の左右差が歩行速度に与える影響について調査した。<対象と方法>Tセンター整形外科に入院し、理学療法を行った股関節疾患患者のうち、痴呆や変形性膝関節症などの合併症がなく、更に手術後3から4週目の間に杖歩行が自力で行えた22名(男性4名、女性18名、平均年齢76.1±8.8歳)を対象とした。疾患名および手術法は、大腿骨頸部骨折による人工骨頭置換術が14名、骨接合術が4名、変形性股関節症による全人工股関節置換術が4名であった。下肢筋力、歩行速度の測定時期は、手術後3から4週目の間(平均23.5±.2.3日)に行った。下肢筋力の測定は、マスキュレーターを使用し、膝伸展60度にて最大等尺性収縮にて左右行った。歩行速度は、訓練中に10mを簡易に計測し、そこから算出した。更に今回は、コントロール群として、下肢に障害がない中等度COPD患者、男性17名についても下肢筋力、歩行速度の測定を行った。分析方法は、歩行速度を従属変数とし、患側/健側の下肢筋力比を独立変数とする回帰分析を行った。<結果>整形外科患者における下肢筋力の平均値は、患側0.80±0.27 Nm/kg・健側1.23±0.27 Nm/kgであった。患側/健側の下肢筋力比は、平均64.7±16.0(範囲34.7から86.4)%で健側の筋力が強い傾向にあった。歩行速度については、36.0±8.0(範囲24.0から50.0)m/minであった。コントロール群の下肢筋力は、右2.09±0.35Nm/kg、左2.00±0.29 Nm/kgで、左右比は、平均104.6±10.3(範囲86.3から119.8)%、歩行速度については、63.9±6.1(範囲50.4から79.3)m/minであった。整形外科患者における歩行速度と患側/健側比の回帰分析の結果、決定係数(R2)=0.67と有意に高い値が示された(p<0.01)。コントロール群は、R2=0.19と低く有意ではなかった。<考察>コントロール群の下肢筋力の左右差がプラスマイナス20%に対し、高齢整形外科患者の下肢筋力は、全例健側の下肢筋力が明らかに強く、患側下肢筋力が低かった。今回の調査は、術後から測定日までの期間を統一して行った。そのため患側下肢の回復過程などの違いにより、個々の患者で筋力差が大きく生じたものと考える。歩行速度と左右比の関連性は、下肢に障害のないコントロール郡の場合、有意な要因としては認められなかった。一方、整形外科患者は、患側下肢筋力が健側にちかづくことにより歩行速度を増加させる要因であることが示された。理学療法を行う上で患側下肢筋力を改善することにより、歩行能力の回復につながることを再認識できた。