抄録
【目的】 正常歩行では,下肢各体節間の安定性(stability)と推進性の保存(mobility)という機能を同時に遂行している.そのためには,下肢体節の運動が停滞せず円滑に回転していくことが必要となる.その回転運動は足部・下腿の矢状面において,踵を中心とする回転運動(Heel Rocker:HR),足関節を中心とする回転運動(Ankle Rocker:AR),前足部を中心とする回転運動(Forefoot Rocker:FR),の機能的な連鎖運動によって獲得されている(Perry,1992).歩行動作の観察において,この回転軸による運動が停滞したり,延長することで異常運動が生じていることがみられる.その異常運動が下肢各関節にストレスを与え,障害の原因になっていることが推測される. 本研究では,変形性膝関節症を例とし足部・下腿の矢状面上回転運動を正常歩行と比較することで,障害の一因を考察することを目的とした.【対象と方法】 被験者は変形性膝関節症患者5名,下肢に特に既往のない健常成人5名とした.測定課題は自由速度による裸足歩行とし,側方から矢状面上の下肢の運動をデジタルビデオカメラにより撮影した.あらかじめ下肢各指標点(腓骨頭:F,外果:LM,踵骨隆起:C,第5中足骨底:M5,第5趾末節骨:DP5)にマーカーを貼付し,立脚相のLM-C間線分が水平線となす角度,F-LM間線分とLM-M5間線分とのなす角度,LM-M5間線分とM5-DP5間線分とのなす角度の時間的変化を計測した.角度の算出は,ビデオで撮影した映像をPCに取り込み,Scion Image(画像解析ソフト,Scion corporation)を用いて行った.【結果】 歩行立脚相において,健常者では踵接地直後にLM-C間線分が回転し(HR),足尖接地後にF-LM間線分が回転し(AR),踵離地後にLM-M5間線分が回転する(FR)という運動が連鎖的に見られた.一方,変形性膝関節症症例での特徴として次の3点がみられた.(1)踵接地後のHRの期間が減少していた.(2)踵接地後からARがみられた.(3)立脚終期のFRがあまりみられなかった.【考察】 星野ら(2001)は,この足部・足関節の矢状面上での回転運動が加齢によって変化することを報告している.特に立脚初期と立脚終期の回転運動の期間が加齢に伴い減少するという結果を示した.立脚初期の回転運動の減少は,推進性を阻害するとともに下肢上位関節のアライメント異常による力学的安定性の低下を招くと推察される.また,立脚終期の回転運動の減少は重心の前方移動を十分に行えず,推進性の低下につながる.今回の結果でも,変形性膝関節症例において加齢に伴う変化と同様の変化がみられ,歩行の力学的変化,安定性・推進性の低下が変形性膝関節症の一因であることが示唆された.