抄録
【はじめに】TENSの作用機序として,ゲートコントロール理論が挙げられる.この理論は不十分な箇所を指摘されているが,現在でも臨床上有用な理論である.TENSは,細い神経線維からの情報を遮断すると考えられているが,それに関する定量的な研究は少ない.本研究では,自律神経系に対するTENSの効果を,筋内での血流動態を自律神経系の1つの活動指標として定量的な分析を行った. 【目 的】本研究の目的は,自律神経系が関与する筋内の血流動態に対するTENSの影響を明らかにすることである.実験には近赤外線分光法(NIRS)を用いて,筋内組織の総ヘモグロビン(Total-Hb)を測定し,その変動を血流動態とした. 【方 法】実験の同意を得た被験者から,上肢に障害の既往,筋肉痛や冷え症などの訴えがあった3名を除いた健常成人13名(男性5名,女性8名)を対象とした.被検者の年齢は19-58歳,身長は151-171cm,体重は42-85kgであった.測定上肢(右7肢,左6肢)は無作為に振り分けた.NIRS(浜松ホトニクス社製,NIRO300A)のプローブを前腕部(尺側手根屈筋)の筋腹中央に配付した.測定肢位は椅子坐位とし,肘関節90度屈曲位となる様に台を設置した.TENS使用時(E群)と未使用時(C群)を同一被検者に対して実施した.測定開始より5分間にTENS(出力10mA,周波数100Hz,パルス幅100μsec;伊藤超短波社製,ES-420)を実施し,未使用時では安静とした.その後の1分間の安静後,他動的に肘関節軽度屈曲位,肩関節約160度まで挙上し20秒間保持した後,元の肢位にて安静を取らせた.さらに再び挙上運動を繰り返し,合計3回の挙上運動と安静を行い,10分間の計測を行った.挙上後1分間の安静時のTotal-Hbを,解析ソフトBIMUTAS-E ver. E2.20を用いて解析した.次の挙上動作前の10秒間より各波形の基線を再算出後に3回分を加算平均化し,安静開始時から20秒間毎の3区間(T1,T2,T3)に分けて積分処理を行った.統計処理は,SPSS ver.11Jを用いた. 【結 果】3区間の積分値の平均値は,C群では,271.4μM・sec ,49.1μM・sec ,7.1μM・secであり,E群では,276.7μM・sec ,68.5μM・sec ,11.5μM・secであった.両者とも時間経過と伴に有意に積分値が減少した(p<0.01).T2(p<0.01)とT3(p<0.05)の区間の積分値では,E群が有意に高値を示した.再算出された基線と交差するまでの時間の平均値は,C群で40.3sec,E群で47.9secであり,有意に遅延した(p<0.05). 【考 察】積分値の低下は,血流が目標である定常状態に近づくことを示している.基線と交差するまでの時間においても,C群に比べE群では遅延し,T2とT3の積分値においても差が認められた.これらの結果から,前腕部の筋内の血流を回復させる為に働いている自律神経系に対して,TENSは抑制的な影響を及ぼしたと考えられる.しかしながら,T1での血流変動において,C群とE群での差が確認出来なかった.今後は,TENSの実施時間を長くし,また動脈血の指標となる酸化ヘモグロビンの動態などについても分析を行いたい.