理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: EO393
会議情報

成人中枢神経疾患
外傷性脳損傷者の運動療法に求められること
*波多野 直
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
はじめに瀰漫性軸索損傷に代表される脳全域に及ぶ機能低下を呈する患者の場合、その障害像の原因を局在的に解釈することは臨床上きわめて困難である。そのため運動療法を具体的にプログラムする理学療法士には、個人に対する配慮と現象をありのままに捉える柔軟性が求められる。当院では、自発性の低下が表面化しており動作に支障をきたしている外傷性脳損傷者に対してこの視点に基づいた運動療法を日々実施している。本報告では、結果的に症状の改善がみられた症例を報告し、考察と展望を述べる。症例1右膝関節屈曲可動域制限及び疼痛を有し、正座姿勢保持が困難であった例。アプローチ、乱数表を確認しながら重量3kgの訓練用ボールを数字ボード上で移動させる課題を実施した。課題は、臀部・踵間に枕をはさみ、疼痛の無い正座姿勢で実施した。結果、正座が可能となり疼痛も消失した。症例2骨盤骨折に伴う加重時の股関節痛により、右立脚中期における支持脚への重心移動が困難であった例。アプローチ、車いす掃除の課題の中で姿勢変更や重心の移動を非口頭指示下で実施した。結果、視診上での重心移動が増え、歩行に積極性が見られ始めた。症例3右痙性麻痺による同脚の振り出しが困難であった例。アプローチ、立位で浮き輪を膨らます課題を実施し、動作中に立位バランスを修正した。結果、介助歩行下での振り出しが可能となった。考察3症例に対して実施した治療では以下の共通点が挙げられる。1.課題自体に本人の意識が向かうこと、2.治療中に動作や姿勢に対する口頭でのフィードバックを行わない、3.自発的な運動を優先する。このような観点において治療を行った結果、動作の質的転換が起こった。このことより運動療法を実施する際、疼痛や動作上の問題点を運動器系の機械的因子に言及するだけではなく、不安や恐怖心などの心理的要因にも考慮する必要性が示唆された。同時に運動遂行能力の改善には、患者自身が外部環境に対して積極的に働きかける過程そのものに、促進効果があることも考えられる。自発性を重視した環境では運動のプログラミング自体も自発的になり、その必然性を基準に姿勢制御などの無自覚的な身体の反応様式も円滑になったことも一因として考えられる。展望として、外傷性脳損傷者の社会復帰を阻害する深刻な問題の一つである遂行能力低下による環境不適応に対して、運動療法が提供する事の出来る動作の質的転換の可能性とその具体化が挙げられる。今後の大きな課題としてさらに追求していきたい。
著者関連情報
© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top