抄録
【はじめに】重症心身障害児(以下重症児とする)の示す非対称姿勢は経年的に進行する。J Goldsmithは非対称姿勢の中でも非常に早期から生じる胸郭の捻じれに着目し、胸骨‐脊柱線(The sterno-spinal line、以下SSLとする)という想像上の直線を考案した。つまり背臥位の際、正常であれば胸骨と脊柱を結ぶ直線は床に対して90°を示すが、捻じれと共にSSLは傾いていくとした。しかし、この具体的計測法は未だ開発されていない。今回我々はSSLの定量評価を可能とする計測器を作製し、若干の知見を得たので報告する。【方法】木製の基盤(72.5cm×10cm×4.5cm)と60cmの金属製支柱4本を用い、基盤の一端から支柱Aを直立させた。支柱BをAと平行に8cm間隔で基盤から直立させ、基盤と接続していない側のA、Bの両端に支柱CをA、Bと直角になるように接続し、Cの8cm下方に支柱DをCと平行に接続した。A、Bと接続していない側のC、Dの先端に金属板を接続し、レーザーポインター(サクラ レーザーポインターRX-1、RABBIT社)を下向きに取り付けた。つまり支柱A、Bが基盤に対して直角である時、レーザー光線も基盤に対して直角に照射され、その時の照射点をEとした。基盤と支柱、支柱と支柱、支柱と金属板の接続にはネジを用い滑らかな連動性を持たせた。この結果支柱A、Bとレーザー光線、また支柱C、Dと基盤は、それぞれ常に平行となり、支柱A、Bをどの角度で傾けても常にレーザー光線はEを照射することが可能な計測器となった。計測器の信頼性を検討するため、験者が支柱A、Bを90°から20°迄10°毎に傾けていき、支柱の傾きを傾斜角度計(最小読み取り角1°)を用いて計測し、同時にMotus2000(Peaks社)でそのつど解析値を求める操作を5回行った。そして90°から20°迄の計測値と解析値の誤差を求め、各計測値間での誤差のばらつきの有無を統計的に検討するため一元配置分散分析を行った。【結果】90°から20°迄、10°毎の計測値(試行5回)とそれぞれの解析値との誤差の全平均は0.57±0.28°であり、一元配置分散分析(危険率5%)の結果はF=1.56(F値の5%境界=2.31)、P=0.18となり、統計的に計測値間での誤差のばらつきは認められなかった。【考察】今回作製した計測器は解析値との誤差が1°以下であり、ばらつきも認められないことから臨床的にも有用と考える。SSLの具体的計測法は基盤と同じ高さの頭部用と下肢用の2枚のマットを用意し、その間に計測器を挿入する。被験者にマット上背臥位をとらせ、胸骨(剣状突起)の高さの脊柱を照射点E上にあわせ、その際の剣状突起にレーザー光線を照射し、その時の支柱A、Bの傾きを計測することでSSLと床のなす角度の計測が可能となる。本研究で用いたレーザーポインターはJIS C 6802(レーザー製品の安全基準)のクラス2製品であり、皮膚への直接照射の安全基準を満たしている。今後はSSLの計測を臨床的に行い、重症児の非対称姿勢の定量評価による進行機序の解明と進行防止に努めていきたいと考える。