理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: HO061
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呼吸器疾患
脳低温療法復温期における肺理学療法の有用性と留意点
*飯田 有輝小山 訓佐藤 友紀二井 俊行一村 桂子菊山 佳昌伊藤 武久山本 直人中坪 大輔
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抄録
【はじめに】近年、重症脳損傷例に対して脳低温療法が用いられ、その有効性も多く報告されている。しかしながら脳低温療法は強力な脳保護作用を有する反面、低体温による心肺機能や代謝・免疫防御系への侵襲が強く、その合併症管理が非常に重要になってくる。特に復温期においては体温調節と共に合併症の予防、早期対応がいかに確実に行なわれるかが治療効果を大きく左右する。呼吸器合併症の管理において肺理学療法は重要な位置付けにあるが、重症脳損傷例の場合、排痰体位そのものが頭蓋内圧(以下ICP)に及ぼす影響が問題となる。今回、肺合併症をきたした脳低温療法復温期にある症例に肺理学療法を施行し、その有用性と若干の知見を得られたので報告する。【症例】1999年2月より2002年10月までの脳低温療法施行患者で、復温開始後、酸素化能低下(P/Fratio<300)と胸部X-P上浸潤影を呈した8症例(男性8例、年齢41.8±13.9歳)に対し肺理学療法を施行した。症例の内訳は脳挫傷4例、くも膜下出血3例、脳出血1例。いずれも外減圧術未施行でICP制御は良好(ICP<20mmHg)であった。また鎮静剤、筋弛緩剤により自発呼吸や咳嗽、ふるえによる熱産生を抑え、完全な人工呼吸管理下にあった。【方法】肺理学療法は脳温変動がないプラトー期に、仰臥位にてICP20mmHg以下、脳灌流圧(以下CPP)70mmHg以上であることを確認し実施した。ICPはセンサー(カミノ・プレッシャー・モニタリング・カテーテル:CAMINO社製)を脳実質に留置し、ICPモニター(MPM-1:CAMINO社製)を用いて測定した。CPPはICPと平均血圧(以下MABP)の差として算出した。排痰体位は治療側を上側とした側臥位および前傾側臥位を用い、ICPが上昇しないようICPモニターを確認しながら体幹に対して頭位が正中位になるよう頚をコントロールした。【結果】8症例とも施行直後にP/Fratio183.6±67.0から353.0±64.9と酸素化能は有意に改善し(p<0.001)、胸部X-P上も陰影の消失または軽減がみられた。排痰体位をとることによりICPは15.8±6.3から22.3±7.0mmHgと有意に上昇し(p<0.01)、CPPは86.4±17.0から75.6±20.7mmHgと有意に低下した(p<0.05)が、頚をコントロールすることにより、ICP16.1±4.2mmHg、CPP81.8±21.5mmHgと施行前と有意差はなくなった。MABPにいずれも有意差はみられなかった。【考察】脳低温療法施行時において排痰体位がICPを上昇させる原因としては、肢位による物理的な因子が大きく影響していると考えられ、頭位変化や頚屈曲・回旋が脳脊髄液循環や静脈灌流を妨げ、結果的にICP上昇に起因するCPP低下を引き起こしたと推測される。脳低温療法復温期における肺理学療法は有用であったが、autoregulationが破綻している病態においてはCPP低下による脳血流低下がさらに病態を悪化させないよう排痰体位に留意する必要があることが示唆された。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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