抄録
【はじめに】呼吸の原動力である呼吸筋力の低下は咳嗽能力に大きく影響する。呼吸器疾患患者における呼吸筋の筋力低下は収縮力低下muscle weaknessだけでなく、呼吸筋疲労muscle fatigueの両側面を持っており、呼吸筋疲労も咳嗽能力に大きく影響すると考えられる。そこで、本研究では咳嗽能力と呼吸筋疲労の関係を明らかにし、さらに、咳嗽能力低下に対する直接的アプローチである咳嗽介助手技について検討することを目的とした。【対象】健常な男性10名を対象とした。【方法】呼吸筋力の測定には口腔内圧計を使用し、最大吸気圧(PImax)と最大呼気圧(PEmax)を坐位および背臥位の2肢位で、咳嗽能力(Peak Cough Flow、以下PCF)についてはオートスパイロメーターを使用し、背臥位で測定した。ここで得られた値を疲労前の基準値とした。続いて、吸気筋疲労の状態を作るため、坐位におけるPImax40%の負荷強度で30分間の吸気抵抗負荷を行った。吸気抵抗負荷後を疲労後とし、疲労前と同様にPImax、PEmax、PCFを測定、さらに咳嗽介助時のPCF(Assisted Peak Cough Flow、以下APCF)を 手技(1)徒手による胸部圧迫、(2)徒手による腹部圧迫、(3)徒手による腹部圧迫と胸帯着用、(4)徒手による胸部圧迫と腹帯着用の4条件で測定した。そして、呼吸筋疲労前後での呼吸筋力とPCFの変化、および疲労後のPCFに対する咳嗽介助手技の効果について比較検討を行った。【結果】吸気抵抗負荷を行った結果、呼吸筋は疲労しPImax、PEmaxは負荷前と比較して有意に低下した。PCFも疲労後では有意に低値を示した。APCFは 4条件全てで疲労後のPCFよりも有意に高値を示した。介助手技毎に比較すると、APCFは手技(4)、(1)、(3)、(2)の順となり、徒手による胸部圧迫と腹帯着用が最も効果が高かった。また、手技間にも有意差を認めた。【考察】本研究の結果、吸気抵抗負荷による呼吸筋疲労は、咳嗽能力に影響を与えると考えられた。今回行った4つの咳嗽介助手技は、いずれも呼吸筋疲労により低下した咳嗽能力を補うことが可能であり、咳嗽介助手技は咳嗽能力の改善のための有効な手段であることが示された。中でも徒手的に胸郭圧迫を行う場合により高い効果が得られたが、これは咳嗽第1相の深吸気の促通が可能、咳嗽時のタイミングが被験者と介助者で合わせ易く、確実に胸腔内圧の上昇を介助可能であることが理由として考えられた。徒手介助と胸帯や腹帯の併用については、若干の効果は認められられたが、特に胸帯は第1相での吸気量を制限する可能性が高く、使用時には患者の状態やその能力を考慮する必要があると思われた。また、咳嗽介助を行う上で介助者の熟達度や介助時の不快感が少ないことも重要であると考えられた。