理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: IO839
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循環器疾患
心臓外科手術後の呼吸機能と運動中の換気亢進との関係について
*熊丸 めぐみ高橋 哲也有薗 信一畦地 萌横澤 尊代安達 仁金子 達夫大島 茂谷口 興一
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抄録
【はじめに】心臓外科手術後の理学療法を進める過程において,歩行や運動療法中に換気の亢進(Rapid and shallow breathing)をしばしば認める.運動中の換気亢進の原因は,手術後の心不全の遷延による換気血流不均衡や交感神経系活動の亢進に起因する中枢性化学受容体感受性の亢進などが指摘されている.一方,胸骨正中切開術による創部痛や胸郭可動性の障害による肺活量の低下や呼吸筋機能の低下などの影響も指摘されているものの,詳細な検討は今までほとんど行われてこなかった.そこで本研究では,心臓外科手術後の運動時の換気亢進に呼吸機能の回復がいかに関与するかを検討した.【対象】対象は当院で心臓外科手術を受けた51例(平均年齢65.0±9.9歳).対象の内訳は冠動脈バイパス術後患者24例,弁置換術後患者22例,その他5例であった.全例呼吸器疾患は合併していなかった.対象者全員には,手術前から本研究の目的,方法,有益性,リスクなどを十分に説明し,研究参加の同意を得た.【方法】当院では心臓外科手術後に順調に理学療法が経過し,病棟内自由歩行が許可された段階で心肺運動負荷試験が行なわれ退院まで監視型運動療法が行われる.今回の検討では心肺運動負荷試験は手術後約10日目に行われ,嫌気性代謝閾値anaerobic threshold(AT)と二酸化炭素に対する分時換気量の傾き(VE-VCO2 slope)が算出された.同時に最大吸気筋力(PI-max),最大呼気筋力(PE-max),努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1),肺活量slow vital capacity (SVC)を評価した.特に,呼吸筋力値に関しては性別ごとに年齢,身長,体重から算出した呼吸筋力の予測値を算出した.さらに約2週間の運動療法後(退院前)に,上記すべての項目を再評価した.【結果】退院前のPI-max,PE-max,FVC,FEV1,SVC,ATとVE-VCO2 slopeは,運動療法開始前に比べて有意に改善した.予測呼吸筋力値に対する実測値の割合とVE-VCO2 slopeとの間には相関関係を認めなかった.また,運動療法前後のPI-max,PE-max,FVC,FEV1やSVCの改善率とVE-VCO2 slopeの改善率との間にも相関関係を認めなかった.同様に,運動療法前後のATの改善率はPI-max,PE-max,FVC,FEV1やSVCの改善率との間にも相関関係を認めなかった.【まとめ】呼吸筋力の改善や肺機能の改善は心臓外科手術後の運動時の換気亢進と関連を認めず,運動時の換気亢進やその改善には呼吸機能以外の因子が関与していることが明らかになった.
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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