抄録
はじめに】熱傷は四肢の皮膚深層まで組織が損傷されると切断へと至る。今回,熱傷による四肢切断者に対し,短期間で電動車いす操作自立をした症例を経験したので報告する。【症例】18歳,男性。塗装業。母と2人暮らし。【現病歴】2002年2月12日自動車内でのガス爆発により受傷。第3度熱傷60%,気道熱傷有り。救急病院にて4ヶ月入院し,その間計11回の手術(デブリードマン+植皮+切断)を行い,熱傷創の治療が終了した段階で6月5日当院入院となった。【PT開始時所見】切断状況:両上腕切断 断端長(肩峰→断端末)右17cm/左19cm,両大腿切断 断端長(坐骨→断端末)20cm/20cm。皮膚状態:訓練マットでも特に痛み等の訴えはないが,背部に3ヶ所の糜爛がみられ,擦れると剥離する状態であった。ADL:全介助(Barthel Index 0点)。起居動作:寝返り自立,移乗全介助。坐位耐久性:リクライニング型車いすにて背もたれを後方に45°倒した状態では約1時間乗車可能。ROM:股関節屈曲制限(右55°,左45°)。筋力:四肢MMT4レベル。精神状態:訓練には積極的であったが病棟では反抗的であった。【経過】2002年6月7日 PT開始。股関節屈曲制限のため長時間車いす姿勢保持ができない。そのためシーティング適合チーム(理学療法士,義肢装具士,福祉機器研究員,医師)により股関節屈曲位で坐骨支持のクッションと,背中には蒸れない材質のクッションを作製し,結果安定した坐位姿勢保持が可能となった。6月14日 股関節屈曲可動域の確保,四肢の筋力増強を中心に訓練開始。6月21日 電動車いす操作訓練開始。左上肢で操作可能なリクライニング型電動車いすを使用。コントロール部はカップ状のコントローラーをスポンジで覆い,義手装着,未装着状態でも操作可能とした。6月26日 電動車いす操作自立。その後背臥位でのいざり動作を獲得するなど,起居動作能力の向上がみられた。左上肢の上腕義手装着が検討されたが,7月9日 本人の希望により自宅退院となったためPT終了となった。【考察】本症例は四肢切断のため,ADL全介助の状態で自力での移動手段も無い状態であった。そこで自力での移動手段の獲得を目標に,シーティング適合チームによる車いすクッション・電動車いすの調整など環境面の整備,PTの徒手的訓練による身体能力向上などを行った結果,電動車いす操作が自立となった。短期間で電動車いす操作自立に至ったことは,患者自身が持っていた機械に対する操作能力の高さが寄与するところが大きいと思われる。しかし,PTをはじめとする医療チームによって,車いすなど患者の周辺環境を早期に整備していったことが,患者の持っている潜在能力を最大限に発揮させ,移動能力の獲得へ至ったものと考えられる。