抄録
【はじめに】 予測的姿勢制御(APA)は姿勢筋の筋活動や足圧中心(COP)によって観察され,予測可能な外乱が加えられる状況や随意運動において姿勢筋が主動作筋よりも早期に活動する.APAは姿勢保持のためや運動の初動作(動作が開始する瞬間の動き)が円滑に行えるために働くと報告されてきた.しかしながら,これらの報告は単一動作課題における研究がほとんどである.我々はAPAが運動の初動作のためだけに働くのではなく,連続動作においても安定した動作が行えるよう制御しているのではないかと推測した.本研究の目的は,つま先立ち動作を1回(単一課題)あるいは3回(連続反腹課題)施行させた時の予測的姿勢制御(姿勢筋の反応時間,筋活動量および足圧中心の振幅)に違いがあるかどうかを確認し,連続反復動作におけるAPAの働きを明らかにすることである.【対象と方法】 対象は,筋骨格系および神経系に異常のない健常若年男性15名とした(平均年齢23±3歳,平均身長172±7cm,平均体重61±8kg). 被験者をフォースプレート上に立たせ,音刺激と同時にできるだけ速くつま先立ち動作を行わせた.つま先立ち動作は1回のみと3回連続の2種類の課題を行わせ,各課題でそれぞれ10回計測した.尚,実験前に十分練習を行わせ,各課題で初動作(最初の踵を挙げる動作)が同様に行われるようにした.導出筋は前脛骨筋・腓腹筋・大腿直筋・大腿二頭筋・腹直筋・脊柱起立筋とし,表面筋電図を電極間距離3cmにて収集した.静止立位における基線の2SD以上の筋活動が認められた時を筋活動開始時間とした.3次元動作解析システムを用いて踵・大転子・肩峰・頭頂など7ヶ所の身体位置情報も収集した.統計学的検討にはT検定を用いた.【結果および考察】 単一課題と連続反復課題との踵の最大垂直変位,最大速度および肩峰の最大垂直変位を比較することにより各課題における初動作が同様に行われたことを確認した.つま先立ち動作の主動作筋である腓腹筋の筋活動開始時間を基準とすると,各課題でのつま先立ち動作でAPAが観察され,特に身体の前面の筋(前脛骨筋・大腿直筋・腹直筋)が腓腹筋よりも早期に活動していた.それは単一課題よりも連続反復課題の方がより早期に出現していた.踵部が動き出すまでの筋活動量を各課題間で比較すると単一課題よりも連続反復課題の方がより増大した.更に,単一課題と連続反復課題におけるCOPの前後方向の移動距離に相違が認められた.これらのことから各課題で初動作が同様に行われたとしても,単一動作を行う時と連続動作を行う時とでは中枢系からの運動指令は異なる制御を行っていると考えられ,運動の初動作が円滑に行われるために働くとされていたAPAは初動作のみに働くのではなく,安定した動作が継続的に行えるような働きも担っていることが示唆された.