抄録
【はじめに】教育において学生を効率的に目標へ到達させるためには、その目標に合致した教育内容とその教科内容を効果的に学生に獲得させるための教授方法が重要である。しかしながら、効果的な教授法については、歴史の浅い理学療法教育においてそれぞれの教科内容に適した教授方法に関する指針は無く、また各種の教授法を検討した研究も皆無である。そこで今回は、動作観察の教育においてスキーマ学習法をとりあげ、その効果を質的に評価することを試み知見を得たので考察を加え報告する。【対象と方法】対象は本校理学療法学科1年生25名(平均年齢19.8±2.8歳)。方法は、講義の前後に同一の脳卒中右片麻痺患者の歩行を、前額面と矢状面から撮影したビデオ映像を5回繰り返し見せて、正常歩行との相違点を重要と思われる順に列挙させた。さらに、どの位観察できたかの自己評価をVisual analogue scaleを用いて測定した。講義は、スキーマ学習法の手法を用いて、学生に正常歩行の概念を板書させクラスで討議し、それを基に動作観察の視点について検討・確認する内容を実施した。統計処理はSPSS 10.0 for windowsを用い、正常歩行との相違点の数と動作観察の講義前後での自己評価についての比較をt-test、正常歩行との相違点上位3項目の内容について講義前後での比較にはχ2検定をそれぞれ実施し、危険率5%未満を有意水準とした。【結果】正常歩行との相違点の数では講義前が平均7.8±1.7項目で講義後が平均8.9±1.9項目と有意な増加を認めた(p<0.01)。動作観察がどれだけ出来たかの自己評価では、講義前が平均3.3±1.3_cm_で講義後が5.1±1.5_cm_と有意な向上を認めた(p<0.01)。相違点の内容上位3項目を分類すると_丸1_麻痺側立脚相、_丸2_麻痺側遊脚相、_丸3_非麻痺側遊脚相、_丸4_重心・バランス、_丸5_その他の5項目に分類され、講義前後で麻痺側遊脚相に注目する傾向から重心・バランスに注目する傾向に変化がみられた(p<0.05)。【考察】スキーマ学習法の手法を用いた講義後には、系統立てて観察できるようになった結果、動作観察の視点が局所に集中していたものが、全体を観察しそこから局所に移るというような視点に変化した。また、観察したままに記録していた講義前と違い相違点の数も増加し、これらのことから、自己評価における達成度にも向上が見られたものと考えられる。問題解決過程は推論という認知作用によって遂行され、推論の質はその際用いるスキーマの質に依存するとされている。本研究の結果より、スキーマ学習法は文字通り、動作観察という問題解決過程に必要なスキーマの質を向上させたものと推測される。