抄録
【はじめに】高齢者に対する運動・生活指導を中心とした複合的なアプローチは、身体機能の維持だけでなく介護予防に重要な役割を示すとされている。我々は第37回学会において、自立生活者のための高齢者施設であるケアハウス(軽費型老人ホーム)入居者への運動介入に対する検討から、運動習慣に対する動機付けの重要性を明らかにした。本研究の目的は、運動習慣に対する運動・生活指導による動機付けを意識した長期にわたる継続的な介入により、施設入居者の身体機能に与える影響を経年的な視点から明らかにする事である。【対象と方法】2000年11月から当施設に併設されたケアハウスに入居し、およそ2年間にわたり継続して運動指導を受けた6名(男性1名、女性5名、平均年齢81.0±7.4歳)を対象とした。身体機能評価として、武藤らによる健脚度より10m全力歩行(速度・歩数)・最大一歩幅・踏み台昇降の可否、開眼単脚直立時間を採用した。評価時期は2000年11月(介入前)および2002年11月(介入後)である。2001年1月から2002年3月までは月4回の運動介入、その後月2回の運動介入に加え運動習慣への動機付けを意識した10分程度の体操を週3回追加実施し介入前後で運動による効果の検討を行った。【結果】介入前後で10m全力歩行速度は17.8±9.6秒から15.2±7.1秒へと向上し、歩数は29.7±8.5歩から25.5±7.8歩へと減少したが有意差は認められなかった。同様に、踏み台昇降の可否においても、全員不可能から4名が20cmの台で困難を伴うが可能へと向上したが有意差は認められなかった。最大一歩幅、開眼単脚直立時間では、やや機能が低下する傾向であったが有意差は認められなかった。【考察】運動習慣に対する動機付けを意識した運動介入を2年間継続して行ったが、効果的な身体機能の向上は認められなかった。対象者は、運動介入により健康に対する意識が高まったと考えられるが、身体機能の改善には至らず低下を予防するにとどまったものと推察される。Gillら(2002)は虚弱高齢者に対する機能低下予防を目的とした運動介入について、対象者が多くの病的要因を含んでいるため、機能低下の軽減には影響を与えるものの身体機能の向上の獲得には至らなかったと報告している。また分木ら(2002)は虚弱高齢者に対する転倒予防プログラムについて、身体機能の向上・維持さえも難しく運動による効果も表れにくいことを論じている。しかし、身体機能が全般的に低い高齢者に対しては、運動習慣に対する動機付けを伴った運動介入、ならびに健康を意識した生活指導の意義は重要であると考える。今後とも運動や健康に対する関心を高めるための、取り組みやすい運動プログラムや生活環境整備に心がけ、健やかで実りある生活への援助方法を模索していきたい。