抄録
【目的】摂食・嚥下障害が注目されている。脳卒中急性期には40-50%が嚥下障害を伴い、高齢者市中肺炎の71%は不顕性誤嚥が原因であると報告されている。また神経筋疾患による呼吸筋力弱化による不十分な咳嗽や嚥下機能低下は肺合併症の原因となっている。しかし、摂食・嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)には十分な科学的根拠がない(脳卒中治療ガイドライン2004)とされ、今後根拠の蓄積が望まれる分野である。当院では口腔外科医・看護師・言語聴覚士を中心に嚥下リハに取り組んでおり、そのなかで理学療法士が関与した症例についてその経験を報告する。
【方法】臨床所見と嚥下造影検査(VF)により嚥下障害と診断され、呼吸循環器系がコントロールされ意識障害や痴呆などの認知障害のない患者3名である。理学療法の内容は呼吸訓練、咳嗽訓練(息こらえ・随意的咳嗽訓練)、運動療法(関節可動域・筋力増強・歩行訓練)、ADL訓練である。身体計測は身長・体重・BMIを、知的機能はMMSEを測定した。アウトカムは努力性肺活量(FVC)、呼吸筋力(PImax・PEmax)、咳嗽力(PCF)、主観的咳嗽機能評価(PI)、摂食・嚥下能力のグレード(Gr)、ADLテスト(FIM)そして誤嚥性肺炎発生率である。なお、看護師はおもに直接訓練を、言語聴覚士はおもに間接訓練をそれぞれの症例に通常通り介入した。
【結果】患者は女性3名(年齢73.7±16.3歳)で、診断名は脳梗塞・肝膿瘍・肺炎である。身長は1.52±0.07m、体重50.5±13.0kg、BMI21.5±3.5、MMSE24.7±0.6であった。VFの所見は全例梨状窩残留を認めた。介入前後のアウトカムはそれぞれ、FVC(L)1.40±0.54・1.47±0.39、PImax(cmH2O)16.4±5.4・37.8±9.0、PEmax(cmH2O)32.6±9.8・51.2±4.5)、PCF(L/s)2.32±1.35・3.78±0.68、PI9.3±1.2・5.0±0.0、Gr7±1・9.7±0.6、FIM99.3±11.0・121.3±6.4であった。また、介入後3ヵ月時点で誤嚥性肺炎の発症は認めなかった。
【考察】本障害への理学療法介入の目的は運動療法・ADL訓練のほか、呼吸予備能力の改善に加え嚥下と呼吸の協調性を目指す呼吸訓練、誤嚥防止のための咳嗽訓練がある。本小経験では肺機能の改善はほとんど認めなかったが、呼吸筋力・咳嗽力・咳嗽機能は改善し、嚥下障害・誤嚥予防並びにADL改善に寄与する可能性を示した。今後は症例を重ねて本経験の結果を確認すること、また自然回復・他の介入の関与を区別するためランダム化比較試験が望まれる。
【まとめ】理学療法介入を行った3例の嚥下リハについて報告した。肺機能の改善はほとんど認めなかったが、呼吸筋力・咳嗽力・咳嗽機能は改善し、嚥下障害・誤嚥予防並びにADL改善に寄与する可能性を示した。