抄録
【はじめに】
入院期間短縮を求める社会的要求が高まる中で,理学療法士は種々の事由による短期間入院の条件下でゴール達成が要求される事も多い。今回,福祉施設からの入院患者に対して,短期間での集中的な理学療法(以下PT)を一覧表形式に工夫した方法で記録して実施する経験を得たので,症例検討と併せて紹介し検討を加える。
【症例紹介】
発育不全,精神遅滞,軽度左片麻痺を既往に持つ知的障害者更正施設在住の34歳男性。介助歩行レベルにあったが3ヶ月前から運動機能が後退したため,PT目的で短期入院となる。入院時は,起き上がり・立ち上がり動作ともほぼ全介助,歩行器歩行は中等度介助で2m程度可能であった。Brunnstrom stageは上下肢共VからVI,発語は殆ど無く意思疎通は困難であった。運動機能の低下原因は不明であったが,ゴールを起居動作の介助量軽減,歩行器歩行の介助量減少と歩行距離延長(約20m)とし,それらを繰り返し援助する内容のPTを開始した。
【PT記録の工夫】
短期間でのゴール達成が要求されるため,記録を一覧表形式とし,起き上がり・立ち上がり・歩行の介助量,歩行距離,実施PT内容(種目,回数,時間),体調,日中の車椅子上座位時間の項目を日々コンピューターで記録し,PT評価・治療の指針とした。
【患者様の回復状況】
PT開始後2日目で立ち上がりが軽介助から見守りレベルに,32日目で起き上がりが軽度介助レベルに達した。歩行介助量は不変だが,距離は日々の変動はあるものの38日目で12mまで達した。2ヶ月目で退院後,週2日の通院PTにより,起居動作・歩行時の介助量,歩行距離は維持され,今回の短期入院での集中PTは現時点では成功したと思われる。
【一覧表形式のPT記録の考察】
今回の集中PTの成功要因を,工夫したPT記録の側面から考察する。記録項目をゴールと実施PT内容としたことで,各ゴールの達成状況が判りやすく日々のPT内容の決定に参考となった。また一覧表形式では達成の遅いゴールが一目瞭然で,治療重点を考える際に役立った。体調や車椅子座位時間は日々の機能状態の解釈や予測の一助となった。これらの点から,今回の記録の工夫が適切な障害像把握と問題解決を志向するPTの実行に貢献したと考えている。院内コミュニケーションの上でも,一覧表形式の記録は患者さんの機能状態を短時間で伝えやすく,病棟生活の工夫や退院時期の決定などに有効な資料となった。更に,新人教育の面でも,記録項目が明示されているので評価内容の欠落が防げるなど記録トレーニングにも利用できる可能性がある。しかし,臨床所見の詳細な記載やデータ,日常生活での変化がとらえにくいなどの問題点が挙げられる。今後、他の短期入院症例に対して一覧表形式のPT記録方法に改良を加えて試行し,その有効性について検討したい。発表では実際の一覧表の記録を提示して報告する。