理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-123
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一般演題(口述)
着地動作時の足部方向が膝関節へ与える影響の性による違い
石田 知也山中 正紀宝満 健太郎武田 直樹
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キーワード: ACL, 着地動作, 性差
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抄録
【目的】
非接触型膝前十字靭帯(以下ACL)損傷率は女性において同一スポーツ種目の男性に比べ2~8倍高いとされている.受傷場面のビデオ解析や,受傷場面を想定した着地動作やカッティング動作の動作解析における性差などから膝関節の浅い屈曲角度や大きな外反角度,過度な回旋が非接触型ACL損傷の潜在的なリスク因子として考えられている.ACL損傷予防プログラムではジャンプ着地動作などにおいてこれらのリスク因子を減じることに焦点を当てた神経筋トレーニングが広く行われている.その中には着地時の股・膝の深い屈曲や,膝と足部方向の関係についての教育・指導が含まれているものが散見される.しかし,実際に着地時の足部方向が膝関節へ影響を与えるのか,その影響の程度に性差があるのかといったことは不明である.そこで本研究の目的は着地時の足部方向が膝関節に与える影響の性による違いを検討することである.
【方法】
神経学的,呼吸循環器系の既往がなく,過去一年の筋骨格系の既往がない健常若年者13名(男性6名,女性7名,平均年齢21.3±1.6歳)を対象とした.動作課題は30cm台から降り,着地後直ちに最大垂直跳びを行うDrop Vertical Jumpを用いた.赤外線カメラ6台(200Hz)と反射マーカー39個,三次元動作解析装置EvaRT 4.3.57(Motion Analysis社製),床反力計2枚(Kistler社製,1000Hz)を同期させ一連の動作を測定した.また,着地時の条件を足部方向の指示を与えないPreferred,足先を内側および外側に向けて着地するように指示を与えたToe-in,Toe-outの3条件とした.台から降りた後の最初の着地から最大垂直跳びを行うまでを床反力の垂直分力から同定し,立脚期と定義した.解析は立脚期における右下肢に限定した.膝関節の屈曲,外反,回旋角度について初期接地(Initial Contact;以下IC)時,立脚期におけるピーク値および変化量をSIMM 4.2.1(MusculoGraphics社製)を用いて算出した.また,第二中足骨頭と踵部のマーカーを結ぶ線を足部長軸と見なし,水平面上で足部長軸と進行方向が成す角を足部方向とした.各条件3回ずつの成功を測定し,その平均値を各被験者のデータとした.統計学的検定はANOVAを用い,post-hoc testはBonferroniを用いた.有意水準はp<0.05とした.
【説明と同意】
本研究は当大学院倫理委員会の承認を得て行った.対象には事前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などを説明し,その内容について十分に理解を得た.その上で参加に同意した者は同意書に署名し,実験に参加した.
【結果】
足部方向に性差は見られなかったが,男女共に3条件下で有意に異なり(p<0.01),Preferredに比べToe-inでは足部内転方向に,Toe-outでは足部外転方向に足部方向が変化していた.PreferredではIC時の膝外反角度が女性で有意に大きかった(p<0.01)が,その他に有意な性差は認めなかった.Toe-inでは女性でIC時の膝屈曲角度が小さい傾向にあった(p=0.08).Toe-outではToe-inと同様にIC時の膝屈曲角度が女性で小さい傾向にあり(p=0.09),さらに膝外反角度がIC時,ピーク値,変化量の全てにおいて女性で有意に大きかった(p<0.01).また,3条件のいずれにおいても膝回旋角度に性差は認めなかった.
【考察】
本研究は着地時の足部方向の違いが膝関節に与える影響を検討することを目的としており,3条件における足部方向が有意に異なっていたことは設定条件が確実に行われていたことを示す.PreferredではIC時の膝外反角度が大きかったが,それ以外に有意な性差は認めなかった.しかし,足部方向の操作を加えたことによりIC時の膝屈曲角度,膝外反角度についてはIC時,ピーク値および変化量に性差を認めたことが本研究の主たる所見である.この所見は,女性が男性と比べて足部方向が変化した際にACL損傷の潜在的リスクが高くなるということを示唆している.実際のスポーツ活動においては本研究のように足部方向を変化させて着地せざるえない場面が想定され,その際に女性は膝を十分に制御できないことがACL損傷率の性差に寄与する一因となっている可能性がある.
【理学療法学研究としての意義】
ACL損傷は短期的には競技からの離脱,長期的には変形性関節症性変化という結果を導き,その予防が重要である.着地時の膝関節制御(屈曲角度の増加,外反角度の減少)に焦点を当てた神経筋トレーニングはACL損傷率を低下させたという報告がある.その際に足部方向を変化させた状況での着地における適切な膝関節制御を獲得することはより優位にACL損傷率の低下に寄与するかもしれない.特に女性においてはそのようなトレーニングが必要であると考えられる.
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© 2010 日本理学療法士協会
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