理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-125
会議情報

一般演題(口述)
運動器不安定症患者における膝伸展筋力とバランス・歩行の関係
山下 輝昭安彦 鉄平島村 亮太山本 真秀水野 直樹野口 慎二山本 純一郎根岸 志帆増田 司平野 正仁安彦 陽子本夛 智史相馬 正之丹野 亮林 泰史
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抄録
【目的】
運動器不安定症とは,「運動機能低下を来す疾患患者で,高齢化によりバランス能力および移動歩行能力の低下が生じ,閉じこもり,転倒リスクが高まった状態」と定義される.医療保険での認可は平成18年であることから,運動器不安定症患者の運動能力を調べた研究は少ない.
一方,介護予防の取り組みの中で,利便性,簡便性が求められる評価として筋力やバランス,歩行等が用いられることが多い.例えば,健常高齢者や施設内高齢者等の筋力とバランス,歩行能力等を評価し,それぞれの評価指標間の関係性を検討する試みがなされている.介護予防領域で用いられている筋力評価では,簡便性,再現性の高さからハンドヘルドダイナモメーターを用いた膝伸展筋力の計測が行われることが多いが,その際には左右どちらかの最大値や左右の合算値,平均が用いられるなど,統一された見解がない.
以上の状況から,本研究では運動器不安定症患者において膝伸展筋力とバランス,歩行能力の関係を検討することを第一の目的とした.また,膝伸展筋力の値を健側の最大値,患側の最大値,平均値の3つに区分し,どれがバランスや歩行能力と最も相関があるか求めることを第二の目的とした.
【方法】
対象は当院に通院し,運動器不安定症と診断された女性51名で,年齢は72.4±8.3歳(平均±標準偏差),身長147.9±6.2cm,体重49.4±8.8kgである.検査項目は膝伸展筋力,Berg Balance Scale(以下BBS),10m歩行最小所要時間(Minimum Walking Time;以下MWT),Timed Up and Go(以下TUG)とした.
膝伸展筋力は,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTAS)を使用し,加藤ら(2001)の方法に準じて行い,左右2回ずつ小休息を取りながら計測をした.左右それぞれの最大値を比較し,値が高い側を健脚,低い側を患脚とし,それぞれを体重で除して健脚膝伸展筋力比(kgf/kg),患脚膝伸展筋力比とした.また,左右の膝伸展筋力の最大値から平均を求め,体重で除した値を平均膝伸展筋力比とした.
BBSは合計点数が最大56点とし得点化し,MWTは10m最大努力歩行の最小所要時間を計測して得た.TUGは2回計測し、速いほうの記録を採用した.
統計処理は,各膝伸展筋力比とBBSとの相関をspearman順位相関係数,各膝伸展筋力比とMWT,TUGの相関をpearson相関係数によって求めた.なお,すべての統計処理はSPSS ver17.0を使用し,有意水準を5%とした.
【説明と同意】
すべての対象症例に本研究の目的と方法とを説明し,同意の後,検査を実施した.なお,本研究は東京都リハビリテーション病院安全倫理委員会の承認を得ている.
【結果】
全対象症例の膝伸展筋力について,膝伸展筋力比は健脚で0.32±0.12kgf/kg,患脚で0.26±0.12 kgf/kg,平均で0.29±0.12 kgf/kgであった.BBSは48.5±8.2点,MWTは10.7±4.4秒,TUGは10.7±4.2秒であった.
健脚・患脚・平均膝伸展筋力比とBBSの相関係数は,それぞれ0.51,0.39,0.47と有意な正の相関を示した.健脚・患脚・平均膝伸展筋力比とMWTの相関係数は,それぞれ-0.43,-0.40,-0.43,健脚・患脚・平均膝伸展筋力比とTUGの相関係数はそれぞれ-0.48,-0.46,-0.48と有意な負の相関を示した.
各膝伸展筋力比間で,BBS,MWS,TUGとの相関係数に大きな差は見られなかった.
【考察】
本研究による健脚・患脚・平均膝伸展筋力比はそれぞれBBS,MWT,TUGとの間に相関性を示した.これらの相関性に関わる先行研究と比較すると,健常高齢者や施設高齢者より高い相関性を示す傾向にあった.本研究の対象は,通院できる活動能力を持った患者であるため,活動度は施設高齢者以上,健常高齢者未満と両者の中間の活動能力であったことが予想される.閉じこもり,転倒リスクが高まった状態とされる運動器不安定症患者において,膝伸展筋力やBBS,MWT,TUGを計測することは重要であるが,何らかの理由で筋力やバランス評価を行えなかった場合は,1つの評価指標を用いても有用な評価となり得る可能性が示唆された.
また,各膝伸展筋力比間で,BBS,MWT,TUGとの相関係数に大きな差は見られず,研究目的ではなく,臨床の場面で運動能力測定を行う膝伸展筋力の値としては,従来どおりで簡便である最大値の利用が望ましいと考えた.
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,運動器不安定症患者における膝伸展筋力とBBS,MWT,TUGとの関係を明らかにすることができた.今後は転倒との関係を長期間に及ぶ追跡で明らかにしていきたい.
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© 2010 日本理学療法士協会
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