理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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パーキンソン病の歩行障害における力学的エネルギーの有効性
箱守 正樹佐久間 亨山本 泰三新谷 周三石原 正一郎
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p. Ab1085

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抄録
【はじめに、目的】 パーキンソン病患者の歩行効率は主に,単位距離当たりの酸素摂取量や,歩行速度と酸素摂取量の比率であるエネルギーの経済性から評価され,健常成人や健常高齢者と比較し,エネルギーの経済性が低いと報告されている(安藤1998,Christiansen2009).パーキンソン病患者の歩行効率を,下肢筋群より出力された力学的エネルギーから検討し,エネルギーの有効性を評価したものは少ない.本研究では下肢関節の力学的仕事や力学的エネルギー利用の有効性指数(Effectiveness index of mechanical energy utilization.以下EI)(阿江と藤井1996)などのバイオメカニクス的観点から,パーキンソン病患者と健常高齢者の歩行動作を比較検討した.【方法】 対象はパーキンソン病患者(以下PD群)6名と健常高齢者(以下健常群)10名とした.PD群の平均年齢は71±6.8歳,健常群の平均年齢は70±8.3歳であった.PD群はHoehn and Yahr StageIが3名,IIが3名で,Unified Parkinson’s Disease Scale(partIII)は平均6.6±2.2点であった.歩行計測は5台のカメラで構成される光学式3次元自動動作解析装置VICON(Oxford Metrics社製)と,2台のフォースプレート(米国AMTI社製)を用いた.歩行は被験者の体表に15個の反射マーカーを貼布し,歩行路を快適歩行(以下快歩)と速歩の2つの歩行速度でそれぞれ2回行った.サンプリング周波数100Hzで記録し,分析範囲は1歩行周期とした.得られたデータをDIFF形式に変換し,歩行速度,歩幅,ケイデンス,EI,1歩行周期の下肢関節の絶対仕事(股関節,膝関節,足関節),快歩から速歩への絶対仕事増加率を求めた.EIは,身体重心の進行方向運動エネルギーと両下肢関節全体の絶対仕事との比から求めた. EIが高いほど下肢筋群による力学的仕事が歩行速度に有効に変換されたことを示す.絶対仕事は,各関節の正負の関節トルクパワーを絶対値として,1歩行周期間で積分することで決めた.統計処理はPD群,健常群で対応のないt検定で比較し,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はJAとりで総合医療センター倫理委員会の承認を得た後,被験者に同意を得て行った.【結果】 EIはPD群(快歩0.25±0.05,速歩0.4±0.05)と健常群(快歩0.27±0.04,速歩0.36±0.06)では差がなかった.歩行速度は快歩でPD群(0.94±0.15m/s)が健常群(1.07±0.12m/s)に比べ遅く,速歩では差がなかった.歩幅は快歩にてPD群(0.33±0.02 m/height)が健常群(0.36±0.03m/height)に比べて小さかった.ケイデンスは快歩で差がなく,速歩でPD群(151.25±13.49 steps/min)が健常群(134.42±10.85steps/min)に比べて大きかった.絶対仕事は,快歩,速歩とも股関節では差がなかった.膝関節は速歩で,PD群(0.98±0.19 J/kg)が健常群(0.84±0.15J/kg)に比べて大きかった.足関節は快歩,速歩ともPD群(快歩0.81±0.17 J/kg、速歩0.88±0.19 J/kg)が健常群(快歩0.98±0.20 J/kg,速歩1.04±0.21 J/kg)に比べ小さかった.快歩から速歩への絶対仕事の増加率は膝関節で,PD群(2.20±0.73 倍)が健常群(1.55±0.27 倍)に比べ大きかった.【考察】 PD群の歩行速度の低下,歩幅の減少,ケイデンスの増加は,Morris(1995)らの先行研究と同一の結果であった.EIにおいては健常群とPD群に差がなく,YahrI,IIのPD群は健常群と同等の力学的エネルギーで歩行速度を維持していたことが示唆された.PD群は健常群に比べ,速歩での膝関節絶対仕事と快歩から速歩への膝関節絶対仕事の増加率が大きく,快歩および速歩での足関節絶対仕事が減少しており,歩行における各関節の貢献度に違いがあった.YahrI,IIのPD患者の膝関節絶対仕事の増加は,足関節絶対仕事の減少の代償と考えられ,貢献度の変化に対応した運動療法を検討する必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 PD患者の歩行効率の低下については,酸素摂取量などの生理学的指標に,力学的仕事やEIなどのバイオメカニクス的指標を組み合わせることでより詳細に評価できると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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