抄録
【はじめに】 脳卒中片麻痺患者の理学療法を実施していく際、立位での体幹の低緊張や姿勢アライメントの左右非対称性が問題となる症例を多く経験する。側腹筋の中でも、体幹深部に位置する腹横筋の評価は針筋電図やMRIによる評価が一般的であるが、いずれも侵襲性があり測定できる姿勢に限りもあるため、臨床的な評価が困難である。近年、非侵襲的な評価方法である超音波診断装置を用いた側腹筋筋厚の検討が着目されている。超音波診断装置を用いた側腹筋の筋厚の評価に関しては、信頼性の検討も多数行われており、筋厚の変化と筋電図活動の相関があることも報告されている(McMeeken.2004,Hodges et al.2003)。また、MRI画像との相関も報告されており(Hides. 2006)、超音波診断装置を用いた側腹筋の筋厚の評価は、筋活動や形態変化を非侵襲的に評価することのできる有用な手段であると考える。今回、超音波診断装置を用いた内腹斜筋(以下IO)、腹横筋(以下TrA)の測定を行い、背臥位・立位にて健常者と脳卒中片麻痺患者で側腹筋筋厚変化に違いがあるかの検討を行ったところ、若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は、健常者群:男性14名、平均年齢27.0±4.0歳、脳卒中群は当院入院中の患者:男性14名、平均年齢67.3±4.8歳とした。超音波診断装置は日立メディコ社製EUB7500を使用し、プローブはリニア式4−9MHzを使用した。撮影モードはBモードにて背臥位・立位ともに測定部位は前腋窩線における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部とした。両群ともに、背臥位にて測定した後に立位で測定を行った。健常者群は右側、脳卒中群は麻痺側・非麻痺側でそれぞれ各2回測定を行った。画像解析は超音波画像をPC上に取り込み、画像解析ソフトImageJを使用し、1mm単位で測定した。統計学的分析はSPSS13.0Jを使用し、2回測定した結果の級内相関係数(ICC)を算出し信頼性の検討を行った後、背臥位筋厚と立位筋厚の筋厚の変化を対応のあるt検定を用い、健常者と脳卒中片麻痺患者(麻痺側・非麻痺側)にてそれぞれ検討を行った(有意水準0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 健常者群、脳卒中群ともに研究の趣旨を十分に説明し、了解を得た後、倫理的配慮を行った上で測定を行った。【結果】 ICCは、健常者で背臥位IO:.964、TrA:.945、立位IO:.990、TrA:.993、脳卒中群麻痺側で背臥位IO:.994、TrA:.991、立位IO:.992、TrA:.997、非麻痺側で背臥位IO:.981、TrA:.970、立位IO:.998、TrA:.991、であった。各、筋厚は健常者群では、背臥位IO:9.79±1.89mm、TrA:3.08±0.54mm、立位IO:11.28±2.80mm、TrA:4.31±0.99mm、脳卒中群麻痺側では、背臥位IO:8.02±2.48mm、TrA:3.00±0.98mm、立位IO:8.14±3.50mm、TrA:3.10±1.42mm、非麻痺側では背臥位IO:7.58±2.45mm、TrA:3.00±0.98mm、立位IO:8.54±2.80mm、TrA:3.27±1.41mmであった。背臥位に比べ立位での筋厚は健常者群ではIO・TrAのいずれも有意に増加した(IO:p=0.008、TrA:p=0.000)。一方、脳卒中群では非麻痺側IOのみ背臥位に比べ立位にて有意に増加した(p=0.048)。【考察】 腹横筋・内腹斜筋の筋厚に関しては、健常者群だけでなく脳卒中群においてもICCは高い値を示し、超音波診断装置を用いた側腹筋筋厚の評価は、脳卒中患者においても利用できるのではないかと考えられる。今回、背臥位・立位における側腹筋の筋厚の変化を検討したところ、健常者群と脳卒中群では違いがあることが確認された。健常者群では内腹斜筋・腹横筋ともに背臥位に比べ立位で有意に筋厚は増加した。内腹斜筋・腹横筋の両筋を背臥位から立位へと姿勢を変化させた際に、筋活動を高めることで不安定で抗重力的な要素を必要とする立位へ適応していると考える。一方、脳卒中群では側腹筋の最も深部に位置する腹横筋は背臥位に比べ立位で筋厚の有意な増加は認められなかった。そして、内腹斜筋に関しては非麻痺側のみ立位で有意に増加するという左右非対称な結果が得られた。脳卒中群では、体幹の安定性に関与すると考える腹横筋の活動が立位においても不十分であり、内腹斜筋が非麻痺側のみ立位で有意に活動することで、立位への適応をしている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 従来、脳卒中患者における評価は触診や、姿勢・動作分析からの主観的評価が多く、客観的な評価を行うには臨床現場では困難である。今回、非侵襲的な評価として超音波診断装置を用いた側腹筋の評価を行い、脳卒中群でも信頼性のある結果が得られたこと、健常者との違いを確認できたことは今後更なる検討は必要であるが有意義な研究であると考える。