理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
人工股関節全置換術における退院時の主観的QOLに及ぼす影響 -術前QOLとの関係性-
田中 暢一高 重治杉本 彩村田 雄二永井 智貴鈴木 静香
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キーワード: Oxford Hip Score, SF-36, QOL
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p. Ca0914

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抄録
【はじめに、目的】 人工股関節全置換術(以下、THA)後のアウトカム評価に主観的QOLを用いた報告は増加傾向にある。そのQOL尺度の一つであるOxford Hip Score(以下、OHS)は、股関節に特化した疾患特異的尺度であり、Dawsonらにより開発され、日本語版は上杉らにより高い信頼性と妥当性が証明されている。OHSを用いた我々の先行研究では、退院時のQOLは術前よりも有意に改善し、術後の疼痛や身体機能を表す因子が退院時のQOLに影響を及ぼすことがわかった。そこで、今回は退院時のQOLを術前QOLから予測することが可能か検討するために調査を行った。【方法】 対象は初回THAを施行された25例25関節とした。性別は女性22例、男性3例、平均年齢は70.1歳(57-83歳)であった。原疾患は変形性股関節症22関節、大腿骨頭壊死3関節であった。全例に対し、術前にOHSとMedical Outcome Study Short-Form 36-Item Health Survey ver2(以下,SF-36)を自己記入式にて回答を依頼した。また、退院時にはOHSのみ回答を依頼した。OHSとは、疼痛および日常生活動作(以下、ADL)について問う12項目で構成され、点数が低いほどQOLがよいことを表す。今回は在院中には回答が不可能である3項目(バスや電車の昇降、買い物、普段の仕事)を除いた9項目にて評価を行った。回収後、全項目の合計点(以下、総合計点)と疼痛を表す項目の合計点(以下、疼痛合計点)、ADLを表す項目の合計点(以下、ADL合計点)を算出した。SF-36は、健康関連QOLを表す包括的尺度であり、8つの下位尺度で構成され、点数が高いほどQOLがよいことを表す。今回は0-100得点を採用した.統計学的検定は、退院時のOHSの各合計点を従属変数、術前のOHSの各合計点とSF-36の各下位尺度の点数を独立変数として 重回帰分析をおこなった。統計解析ソフトは、SPSS 20.0を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的と方法、個人情報の保護について十分な説明を行い、同意を得られたものに対して実施した。【結果】 退院時のOHSの各点数は、総合計点21.5点、疼痛合計点9.2点、ADL合計点12.2点であった。重回帰分析の結果、退院時の総合計点を説明する変数は、SF-36の全体的健康感(以下,GH)(β=-0.595、p=0.001)と日常役割機能-精神(以下,RE)(β=-0.450、p=0.017)、心の健康(以下,MH)(β=0.632、p=0.002)であった(p<0.01、R2=0.587)。疼痛合計点を説明する変数は、GH(β=-0.469、p=0.032)であった(p<0.05、R2=0.179)。また、ADL合計点を説明する変数は、GH(β=-0.531、p=0.007)とMH(β=0.454、p=0.019)であった(p<0.01、R2=0.388)。【考察】 術前QOLが退院時のQOLに及ぼす影響を検討した結果、術前のGHとREが高く、MHが低いほど、退院時のQOLが高いことが分かった。GHは、現在の健康状態を問う下位尺度であり、疼痛合計点やADL合計点にも影響を及ぼしていた。術前は原疾患による股関節症状が生じているが、自分なりに生活を工夫したり、周囲の援助を受けながら自分なりにその状態に適応して生活していると、健康状態はよいと感じるとの報告がある。そのような患者は、術後の疼痛やADLにもうまく適応し、その結果QOLが高い傾向にあるのではないかと考えられる。REは、精神的な理由で仕事や普段の活動が妨げられたかを問う下位尺度である。GH同様に、術前の股関節症状に対する適応力が高く、精神面による活動量の制限を受けていない患者ほど術後の経過が良好であると思われた。しかし、MHはGH、REとは異なり、術前の値が低いほど、退院時のQOLが高いことが示唆された。MHは、現在の精神状態を問う下位尺度であり、身体的側面を含まない。MHが低値となる原因として、手術に対する不安も考えられるが、股関節症状に対する落ち込みによる影響が大きいのではないかと推察する。それは術前のMHは、総合計点だけでなくADL合計点にも影響しており、術前のMHとADL合計点の改善度の関係性をみると、術前のMHが低値であるほどADL合計点の改善度が大きかった。よって、術前に精神状態が悪いほど、術後はそれらの原因が解消されたことで、退院時に過大評価を行った可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 術前から術後機能を予測した報告は多数みられるが、身体機能を客観的に評価したものが多い。今回我々はQOLに着目し、術前から術後のQOLを予測可能か検討した結果、身体的側面だけではなく、精神的側面の影響が大きいことがわかった。THA術後のアウトカム評価は、患者自身が行う主観的評価が重要であり、患者の声を聞くことで問題点が明確となり、術前からの適切な理学療法アプローチが可能になる。よって、さらなるQOLの向上が図れ、術後のよりよいライフスタイルが送れるのではないかと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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