理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
術側上肢への重錘負荷を用いた歩行トレーニングは人工股関節置換術後早期における運動機能の向上に有用である
南角 学坪山 直生秋山 治彦柿木 良介
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p. Ca0915

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抄録
【目的】 人工股関節置換術(以下,THA)術後において,多くの施設で医療の効率化と在院日数の短縮が図られている.このためTHA術後の合併症を予防するとともに術後早期からより効率的に股関節機能や歩行能力の向上を図ることが重要となる.臨床場面では,THA術後早期で股関節外転筋の筋力低下により前額面上の跛行が顕著な症例に対して,術側上肢に重錘を保持させて歩行トレーニングを実施することがある.しかし,術側上肢への重錘負荷を用いた歩行トレーニングがTHA術後早期の股関節機能や歩行能力の回復に及ぼす影響については不明である.本研究の目的は,術側上肢への重錘負荷を用いた歩行トレーニングがTHA術後早期における股関節機能および歩行能力の向上に有用であるかどうかを検討することである.【方法】 対象は片側変形性股関節症で前外側アプローチにより初回THAを施行された34名とした.さらに,当院のプロトコール通りに術後の理学療法を行った17名(男性3名,女性14名,年齢:61.1±8.8歳,BMI:23.9±4.1kg/m2:以下,Control群)と,通常の理学療法で行う杖での歩行トレーニングを術側上肢への重錘負荷を用いた歩行トレーニングに変更した17名(男性3名,女性14名,年齢:61.1±8.5歳,BMI:22.9±2.6kg/m2:以下,Ex群)に無作為に分類した.Ex群の術側上肢への重錘負荷を用いた歩行トレーニングは,体重の2%の重錘を術側上肢に保持させた歩行を術後10日目から開始し,2週間継続して実施した.なお,トレーニングは杖を使用せずに行い,開始から1週間は10分間,その後の1週間は20分間行った.評価時期はTHA術前と術後4週とし,測定項目は術側の股関節痛,術側の股関節屈曲と外転の関節可動域,術側の股関節外転筋力と膝関節伸展筋力,Timed up and go test(以下,TUG)とした.股関節痛は,日本整形外科学会の股関節判定基準の股関節痛の点数を用いた.股関節外転筋力は,徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,それぞれの筋力値はトルク体重比(Nm/kg)にて算出した.統計処理は,術前と術後の各測定項目の比較には,対応のあるt検定とMann-WhitneyのU検定を用い,有意基準は5%未満とした.【説明と同意】 本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果】 身体特性および術前の各測定項目に関しては,両群間で有意差を認めなかった.股関節痛および股関節屈曲と外転の関節可動域は両群ともに術前と比較して術後で有意に改善した.Control群の股関節外転筋力は,術前0.56±0.12(Nm/kg),術後0.56±0.16(Nm/kg)で有意差を認めなかった.一方,Ex群の股関節外転筋力は術前0.59±0.14(Nm/kg),術後0.74±0.18(Nm/kg)で術後に有意に高い値を示した.Control群の膝関節伸展筋力は,術前1.46±0.48(Nm/kg),術後1.34±0.35(Nm/kg),Ex群の膝関節伸展筋力は術前1.43±0.44(Nm/kg),術後1.35±0.36(Nm/kg)であり,両群ともに術前と術後で有意差を認めなかった.また,TUGに関しては,Control群で術前8.74±2.55秒,術後8.98±2.12秒であり,術前と術後で有意差を認めなかった.一方,Ex群のTUGは術前8.98±2.12秒,術後7.92±1.19秒であり,術前と比較して術後に有意に低い値を示した.【考察】 術側上肢に軽い重錘を把持することで,術側の股関節外転筋の働きを補助し,術側立脚期への円滑な重心移動を促すことができる.本研究においては,術側上肢に重錘を用いたことで,より効率的に荷重位でのトレーニングが可能となったために股関節外転筋力が術前よりも25.4%向上したと考えられた.また,術側上肢への重錘負荷を用いた歩行トレーニングにより股関節外転筋力が向上したことから,THA術後早期の歩行能力も同時に改善したと考えられた.今後の課題として,THA術後早期の運動機能の向上が術後中期および長期的な運動機能の回復過程に及ぼす影響を検討していく必要性があると考えられた.【理学療法研究としての意義】 本研究の結果より,術側上肢への重錘負荷を用いた歩行トレーニングはTHA術後早期の股関節機能や歩行能力の向上に有用であることが示され,理学療法研究として意義があると思われた.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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