抄録
【はじめに、目的】 我が国では老年人口の増加に伴い、骨粗鬆症患者とこれに起因する大腿骨近位部骨折が増加している。大腿骨近位部骨折の術後リハビリテーション(以下、術後リハ)の目的は、「歩行獲得」を中心とした受傷前生活の早期獲得である。過去に歩行再獲得の障害因子として様々な因子が報告されているが、患者背景や合併症等が複雑に絡み合うために患者の個別性が高く、一定の知見が得られていない。この歩行制限因子に関して、当院患者150名を対象とした過去の検討では、多変量解析において患側下肢伸展挙上可否・年齢・術後合併症による術後リハ遅延が抽出された。術前後の合併症は、大腿骨近位部骨折術後の一年生存率に有意に影響を与えるとの報告があるように術後に大きな制限を与えると考えられるが、過去の術後リハに関する報告では除外因子に含まれることが多く、リハ制限因子としての報告はみられていない。本研究では大腿骨近位部骨折術前後における内科的合併症の詳細を明らかにすることを目的に、患者因子・内科的合併症の発生状況について検討したので報告する。【方法】 対象は当院にて大腿骨近位部骨折の診断・治療を受け、内科的合併症によりクリティカルパスから逸脱が認められた患者15名(平均85.8±6.7歳、男性5名、女性10名)である。調査期間は2008年7月29日~2011年9月30日。方法として、対象者の身体組成・受傷骨折情報・合併症診断名/診断日・入院時検査所見・受傷前レベル・既往歴/併存疾患・転帰等をカルテより後方視的に抽出。対象者の合併症発症日により術前、術後離床開始前、術後離床開始後の3期に分類し、各発症時期で対象者情報を分析した。【説明と同意】 後方視的な観察研究。データはIDにて管理し、個人を特定できないように配慮した。なお、本研究は当院倫理委員会の承認を受けている。【結果】 調査期間の当院での大腿骨近位部骨折患者は301名であり、内科的合併症によるパス逸脱が認められた患者は5.0%(301名中15名)であった。診断名の内訳は肺炎10名、低アルブミン血症・尿路感染症・不明熱が各2名、咽頭狭窄による呼吸不全・頻拍性心房細動・術後創感染・胸水・腹部大動脈瘤・上部消化管出血が各1名であった(複数回答)。合併症発症時期による分類では、術前10名(66.7%)、術後離床開始前2名(13.3%)、術後離床開始後3名(20.0%)となった。術前発症群10名の診断名の内訳は、肺炎4名、尿路感染症・不明熱が各2名、咽頭狭窄による呼吸不全・腹部大動脈瘤が各1名であった。尿路感染症を除く全例が受傷後3日目までに診断を受けた。手術待機日数は10.6±4.8日。10名中4名が術後に別の合併症を発症した(肺炎2名、術後創感染・上部消化管出血が各1名)。術後離床開始前発症群2名の診断名の内訳は、肺炎・低アルブミン血症が各1名であった。肺炎発症患者は脳梗塞後遺症・嚥下障害を併存疾患に持ち、受傷前より肺炎発症を繰り返していた。低アルブミン血症発症患者は、入院時より低栄養の所見を示していた。術後離床開始後発症群3名の診断名の内訳は、全例が肺炎であった。3例中2例に併存疾患として呼吸器疾患があり、残る1例はアルツハイマー型認知症・嚥下障害を併存していた。【考察】 大腿骨近位部骨折術前後における内科的合併症について、合併症発症時期によって分類して検討を行った。対象者は全体的に高齢で低栄養の所見を示していた。しかし、当院における術前後の内科的合併症発生率は5.0%と、高齢者外科手術における合併症発生率等と比較して低い割合を示した。当院では整形外科病棟においてRSTによる呼吸器回診を実施しているが、それが合併症発生の低下につながっていると考えられる。内科的合併症の内容は肺炎が最も多く、大腿骨近位部骨折術後の死亡原因の報告とも一致した。合併症発症時期による分類では、術前発症が全体の約66%を占めた。疾患発症を契機に全身状態の悪化や意識レベルの低下が引き起こされ、骨折受傷へとつながった症例がいた可能性が考えられる。また、術前発症群は手術待機日数が長くなるだけでなく術後にも別の合併症を発症する等、リハ遅延を引き起こすリスクが高いことが考えられた。術後発症の2群においては、全例が発症原因につながるリスク因子を術前より保持していた。このことから、術前後のリハ介入に際しては患者背景の把握を十分に行う必要があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 大腿骨近位部骨折術前後における内科的合併症に関する基礎研究。術前後のリハ介入に際して、患者背景の把握・リスク管理を十分に行う必要があることが示唆される結果となり、リハ介入の一助となると考えられる。