抄録
【はじめに、目的】 近年90歳以上の超高齢者の大腿骨近位部骨折患者に対する手術例が増加傾向にある。当院でも超高齢者の大腿骨近位部骨折の手術例が増加し、術後のリハビリテーション(以下リハ)の機会が増加している。当院では、超高齢者の術後リハも、大腿骨近位部骨折術後の4週間のクリニカルパス(以下パス)に準じて行っている。しかし、超高齢者は全身状態の低下や種々の合併症により、多くの症例がパスから遅れるのが現状である。 今回、超高齢者の大腿骨近位部骨折術後症例の術前歩行能力と術後の歩行能力獲得時期について調査し、超高齢者のパスについて検討したので報告する。【当院のパスの紹介】 当院の「大腿骨近位部骨折」パスは、術後翌日から立位・車椅子移乗訓練を開始し、術後2日~3日で平行棒内歩行獲得、術後4日~7日で歩行器歩行獲得、8日~14日で老人車歩行かT字杖歩行獲得を目指す。術後15日~28日で段差昇降や屋外歩行を獲得し外泊を行い、28日での退院を目指している。【方法】 2007年4月から2011年3月までに、当院で大腿骨頸部・転子部骨折の診断にて観血的手術を行った40例のうち、骨折前歩行能力が伝い歩き以上で、重度の認知症がない34例を対象とした。内訳は、大腿骨頸部骨折術後が5例(全員女性)、大腿骨転子部骨折術後が29名(男性1例、女性28例)で、平均年齢は92.5±2.5歳であった。術式は、大腿骨頸部骨折では人工骨頭置換術が4例で骨接合術が1例、大腿骨転子部骨折ではDHSが7例でPFNAが22例であった。なお骨折前歩行能力は、独歩群(以下A群)、T字杖群(以下B群)、老人車群(以下C群)、伝い歩き群(以下D群)の4群に分類した。方法は、34例全員の骨折前歩行能力と退院時歩行能力をカルテからretrospective に調査した。さらに骨折別に分類し、それぞれを骨折前歩行能力別に分類し、平行棒内歩行・歩行器歩行・老人車歩行・杖歩行獲得日数について調査し、パスと比較検討した。統計学的処理には、Mann-WhitneyU検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 カルテからのretrospectiveな調査・検討であるが、個人情報に十分配慮し、当院の倫理委員会長に確認してもらった。【結果】 骨折前歩行能力は、A群が7例(24.1%)、B群が2例(6.9%)、C群が13例(44.8%)、D群が7例(24.1%)で、退院時歩行能力は、T字杖が1例(3.4%)、老人車が16例(55.2%)、歩行器が8例(27.6%)、車椅子が4例(13.8%)であった。転子部骨折の術後歩行獲得日は、中央値(第1四分位値-第3四分位値)の順に記載した。平行棒内歩行獲得が7(4-10)日(A群は8(4-26)日、B群は5(4-7)日、C群は5(4-7)日、D群は11(5-13)日)、歩行器歩行獲得が19(8-25)日(A群は16(8-20)日、B群は14(8-19)日、C群は13(9-25)日、D群は26(25-26)日)、老人車歩行獲得が24.5(16-35)日(A群は25(18-25)日、B群は16日、C群は24(15-30)日、D群は36(26-36)日)、T字杖歩行獲得はD群の1名のみで22日であった。平行棒内歩行獲得日数では、各群間で有意差はみられなかった。歩行器歩行獲得日数では、A群とD群、C群とD群に危険率5%で有意差がみられた。頸部骨折の術後歩行獲得日は症例数が5例と少ないため、中央値(最大値-最小値)の順に記載し、参考資料にとどめた。平行棒内歩行獲得が5(3-8)日(A群は6日、B群は4日、C群は5.5日、D群は未獲得)、歩行器歩行獲得が9(6-12)日(A群は10日、B群は8日、C群は9日)、老人車歩行獲得が21(16-27)日(A群は16日、B群は27日、C群は21日)であった。【考察】 超高齢者は、もともと骨折前の歩行能力が低い症例が多く、認知症や種々の合併症により術後の歩行能力獲得が遅れる傾向にある。今回の研究においても、骨折前の歩行能力が低い傾向にあったが、退院時の歩行能力は骨折前歩行能力と比較してさらに2ランク以上低下した症例が多かった。パスとの比較では転子部骨折と比較すると、頸部骨折の方がパスよりも遅れは少ないものの、どちらも最初の平行棒内歩行獲得時期から遅れがみられた。また老人車歩行獲得時期は、パスから1週間以上遅れていた。また骨折前歩行能力が低いD群は他と比較して、パスから著しく遅れる傾向がみられた。【理学療法学研究としての意義】 超高齢者の大腿骨近位部骨折の歩行獲得に、骨折前歩行能力が及ぼす影響を検討することで、今後の超高齢者のパス作成の一助になると考える。