抄録
【はじめに、目的】 障害者や高齢者の住宅改造を支援する制度として、現状では介護保険による住宅改修制度と自治体が行っている住宅改造助成制度が大きな柱となっている。名古屋市には住宅改造の工事費用を上限80万円(介護保険対象者は60万円)補助する障害者住宅改造補助事業がある。介護保険住宅改修費よりも上限額が大きく、申請のためにはソーシャルワーカー、理学療法士または作業療法士、建築士の専門家チームが訪問相談し改造プランの提案を行っているため、利用者が必要としている住宅改造について捉えるのに適している。このチームの中で理学療法士の役割は利用者の動作分析を中心とした身体機能を評価し、利用者が家屋から被っている問題点を解決するために必要な住環境整備方法の知識を提供することである。そのためには身体機能に応じてどのような住宅改造が行われているかを把握する必要がある。そこで今回、名古屋市の住宅改造助成制度を利用した住宅改造の提案内容把握と、身体機能と工事提案箇所の関連性の調査を行った。【方法】 対象は平成22年4月から平成23年3月までに名古屋市の住宅改造補助事業を利用して訪問相談を行った389例とした。訪問相談時に理学療法士または作業療法士が基本動作能力の評価を行い、「歩行」「立ち上がり」「起き上がり」について、それぞれの介助状況を「自立」「見守り」「一部介助」「全介助」の4段階に分類した。これら起居動作の自立度と住宅改造工事提案箇所について比較した。統計的検定にはχ2検定を行い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】 対象者の属性は平均年齢61±19.6歳、疾患内訳は脳血管障害117人、脊髄疾患55人、骨関節疾患50人、神経筋疾患43人、脳性麻痺25人、視覚障害23人、知的障害16人、その他60人であった。改造工事提案箇所は浴室288件、便所287件、居室148件、玄関143件、屋外通路115件、廊下83件、その他134件であった。改造内容は段差解消274件、てすり設置267件、扉変更203件、特殊便器設置135件、便器取替89件、浴槽交換81件、その他154件であった。身体機能と工事提案箇所との関連について示す。歩行自立度と工事提案の有無で有意差が認められたのは、浴室(p=0.003)、屋外通路(p=0.001)、廊下(p=0.02)であった。立ち上がり自立度と有意差が認められたのは浴室(p=0.01)、屋外通路(p=0.006)であった。起き上がり自立度と有意差が認められたのは浴室(p=0.002)、便所(p<0.001)であった。浴室工事では、歩行見守り群、立ち上がり自立群で工事提案の割合が有意に高く、歩行全介助群、立ち上がり全介助群、起き上がり全介助群で有意に低かった。便所工事では、起き上がり全介助群で工事提案の割合が有意に低かった。屋外通路工事では、歩行全介助群、立ち上がり見守り群で工事提案の割合が有意に高く、歩行自立群、立ち上がり自立群で有意に低かった。廊下工事については歩行見守り群で工事提案の割合が有意に高かった。【考察】 改造工事箇所は、死亡事故が多い浴室、日常生活で不可欠な場所である便所が優先されており、生活動線上であり転倒が最も多い居室、外出のための玄関、屋外通路と続いた。身体機能と工事提案箇所との関連について、浴室工事は歩行・立ち上がり・起き上がり全介助群で割合が低いことから、入浴は移動動作の介護度が重度になると在宅で行われず、改造箇所から除外される傾向にあることがわかる。便所工事では起き上がり全介助群のみで工事した割合が低くなったことより、排泄は最もプライベートな行為であるため移動が重介助でも改造目的動作として指摘されるが、起き上がり困難な重度介助者になると改造を行わずポータブルトイレやおむつを使用すると考えた。屋外通路に関して工事内容を見てみると、立ち上がり見守り群ではてすり設置が最も多かったのに対し、歩行全介助群では段差解消機設置、スロープ設置といった車いすでの外出を考慮した大規模な工事が多くなった。廊下工事に関して、歩行見守り群で手すり設置、段差解消といった転倒防止のための工事が多かった。屋外通路や玄関も同様の傾向であり、移動に見守りが必要な方の工事提案内容は転倒防止を目的としたものが中心となることがわかった。本研究で身体状況が工事提案箇所と関連していることが明らかになったので、今後は福祉用具や介護サービス併用状況との検討を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究で自治体の住宅改造助成制度を利用した住宅改造の実態を把握することができた。また、起居動作の自立度が住宅改造に影響を与えていることが明らかになり、今後患者の在宅復帰を図る理学療法士にとって住環境整備を行う上で有用なデータとなった。