抄録
【はじめに、目的】 運動機能向上のための介護予防教室で一定期間の関与により虚弱高齢者の体力が向上することは多くの報告があるが、一方で教室終了後に介護予防活動の継続が困難なため、介護予防効果が減少もしくは消失するという報告も存在する。介護予防の効果は介護予防活動の継続が重要であるが、長期間にわたる介護予防活動の効果の報告は少ない。多くの自治体が介護予防教室後に住民が自主的に活動を継続していく自主グループづくりを課題に挙げているが、大東市では平成17年度から転倒骨折予防のための市オリジナル健康体操「大東元気でまっせ体操」を地域で普及し、自主グループ活動の立ち上げと継続のために支援を行っている。本研究の目的は長期間の介護予防活動がもたらす効果を分析するとともに活動継続のために必要な要因を明らかにすることである。【方法】 1)平成17年度から活動を開始した10団体の参加者123名中、現在も継続している59名(活動群)と非活動群の平成16年度から平成21年度までの5年間の医療費の比較。非活動群は活動群と同地区、同年齢、同性10名の中から平成16年度の一年間の医療費が活動継続者とほぼ同額の者を選定した。2)平成17年度から平成22年度に行った半年毎の体力測定(開眼片足立ち、Timed up and Go、長座位体前屈、足指握力、握力)に全て参加した45名の結果の推移。体力測定結果についての統計解析はt検定を用いた。3)活動継続要因に関する面接式アンケート調査。【倫理的配慮、説明と同意】 地域での体操の参加者には年1回、体力測定結果などの個人データの取り扱いについての説明を行い、個人情報の提供に関しての同意を得ている。【結果】 1)医療費は全体では活動群は非活動群に比べて高くなっていた。前期高齢者においては、当初4年間は非活動群の方が低くなっているが、5年目を過ぎると逆転していた。2)体力測定結果の推移では長座位体前屈、握力以外の項目で体力が向上していた。特に開眼片足立ち、Timed up and Goでは4年間向上し続けており、有意な差が認められた。3)活動の継続の一番の要因は「参加が習慣になっていたから」、次に「会場が近い」であった。また、参加者が特に感じている要因では「仲間ができたから」、次に「体力向上効果の自覚」であった。【考察】 1)前期高齢者の医療費が5年目に逆転していることから、加齢に伴う体力低下の影響が非活動群の医療費を引き上げている可能性があり、早期からの介護予防活動は医療費軽減の効果が期待できると考えられる。2)活動継続者の体力は長期にわたり維持向上し続けており、活動の継続は高齢者の体力向上に大きな効果をもたらしていることがわかった。3)活動の継続要因で「参加が習慣になっていたから」の回答が一番多かったが、習慣化するまでの支援が重要であると考える。そのため、本市では体操の立ち上げ時に出前講座として市の理学療法士もしくは作業療法士が「高齢者に適した運動」について講義と体操の実技指導を行い、その中で運動の継続こそが大切であることを伝え、その後、運動指導員を3回派遣している。また「会場が近い」という回答は自治会館や公民館など、身近な会場を設定したことが影響していると考えられる。「体力の効果を感じていた」の回答により、定期的な体力測定の実施が自身の体力の向上を実感する機会として活動継続のモチベーション維持、向上の効果的刺激になっていると考えられる。「楽しかった」、「より元気になりたかった」の回答は市が養成している介護予防サポーターの存在が大きいと考える。参加者と同年代の介護予防サポーターが各団体で活動の運営を支えている。彼らは各活動拠点で体操に参加しやすいように楽しい雰囲気づくりをしている。また、同年代でありながら活動的な彼らの存在が虚弱高齢者のモデルとなり、彼らの存在が参加者の「もっと元気になりたい」という気持ちを刺激し、体操を継続する要因となっていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 多くの理学療法士が自治体からの委託により介護予防事業に関与しており、教室参加中の体力向上などの効果を出しているが、今後は教室終了後のフォローへの関与も必要と考える。今回の結果を踏まえ、今後は教室運営に留まらず、自治体の職員と連携し、介護予防活動が継続できる体制づくりに関与していってもらいたい。