理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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体育授業でのボッチャ実施の効果
粟生田 博子押木 利英子鈴木 みずほ
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キーワード: ボッチャ, 教育, 連携
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p. Ed1472

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抄録
【はじめに、目的】 身体活動は対象者のレベルに応じて心身機能の維持・増進に重要であり,学校体育は,健常児だけでなく障がいを抱える児童・生徒にとっても貴重な身体活動場面である.障がいを持つ子どもたちの多くは,自身の身体機能や環境の障がいにより活動が限定されやすいが,適切な援助や励ましにより多様な身体活動を楽しむことができる.しかし,授業の内容は生徒の身体機能の状況と担当教員の経験に依存する部分が多く,現場では課題が残されている.そこで我々は,2010年より特別支援学校の体育教員と連携し,体育で障がい者のスポーツ種目である「ボッチャ」を導入し,授業を行っている.ボッチャは,ヨーロッパで生まれた重度脳性麻痺者もしくは同程度の四肢重度障害者(頸随損傷や筋ジストロフィー症など)のために考案されたスポーツで,パラリンピックの正式種目である.的になる白いボールに,赤・青各6球ずつのカラーボールを投げたり,転がしたりしてどれだけ近づけられるかを競う.ボッチャの特徴として,競技は全て選手の判断で行われることが挙げられる.障害の程度により介助者の帯同も可能であるが,その際,介助者は選手の指示に従い,介助者が指示を出す,会話をする,コート内を見るなどはできない.また,個人戦だけでなくペア戦やチーム戦も行われ,選手がお互い協力し,結果を予測しながらゲームを構築する能力なども求められる.そこで今回,授業に参加した生徒および教員を対象に行ったアンケート調査について質的分析を用い,ボッチャ実施の効果について検証したので報告する.【方法】 対象は,A特別支援学校高等部の生徒22名および体育担当教員8名である.授業は,理学療法士が学習指導案を作成し,体育担当教員と協力して授業を展開した.授業終了後,対象者に対し,選択肢および自由記述式を併用した授業内容等に関するアンケート調査を行った.自由記述式の文章から,逐語録を作成し,そこから抽出・付与した意味内容について担当者間で協議を行い,最終的な意味内容を決定し,カテゴリ化を行った.さらにそれぞれのカテゴリを類型化し,上位カテゴリを作成した.【倫理的配慮、説明と同意】 調査実施にあたり,生徒,保護者,教員へ書面を用いて説明を行い,同意を得た上で行った.【結果】 ボッチャは生徒・教員とも非常に好評であった.その中で,生徒たちは「用具」(「ボール」:n=15,「ランプス」:n=2など),「手技」(「投げ方」:n=15,「コントロール」:n=17など),「手段」(「試合」:n=10,「作戦」:n=12など)に興味や難しさを示していた.またボッチャを行ったことによって「他者との関係」(「自分以外の人」n=14,「コミュニケーション」:n=12など)が活発になっている様子が伺えた.教員からは,ボッチャの実施を通じた生徒の変化として「主体性」,また「自信」「自立」が挙げられた.【考察】 従来の体育授業では,ルールを一部変更したり,障がいの程度によっては参加できない種目があったりと制限される部分が多い.ボッチャは,「ボール」を「投げ合う」「試合」という簡単な構成要素の中に,生徒たちが自分のボールを的に向けて投げるという課題に対して,その結果がボールの位置に反映される過程を繰り返すことができる.従って「ボール」は各生徒自身の意思を伝えるツールとして重要な役割を果たしていると考えられる.また,投げ方やランプスの使い方などは自身の身体機能や能力に応じて選択可能なことや,練習やゲームを通じてお互いの動きを観察する中で,自分自身の身体に対する認識が高まり,「手技」が表出されたと考える.また,「手段」について,今回は3~4名のチームを作り,試合を行うことを繰り返した.ボッチャは対戦型競技であり,試合展開を考える必要が生じる.生徒たちはこれまで他者と競う経験が少なく,「試合」をどのように進めるか思考する過程を体感できたと考えられ,さらに「他者との関係」において,自分の意志を伝えるために生徒たちが自発的に関係性を強めたものと考えられる.このような生徒の変化は,参加した教員から得られた「主体性」や「自信」などの結果からも伺うことができ,今回の授業を通じた生徒の自立行動変容を示唆するものと考える.今後は,専門職種の介入を伴った授業構成が生徒の身体・精神機能や活動にどのような影響を及ぼすかについてより客観的に評価し,その効果を検証することが重要であると考える.【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が教育現場と連携することにより,障がいを持つ児童・生徒の学校における身体機能をよりきめ細かく評価し,教職員と協力して障害に応じた適切な身体活動を提供することが可能になると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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