理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-07
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ポスター発表
居住様式の違いは高齢者の転倒恐怖感に影響を与えるか
井戸田 学古川 公宣
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抄録
【目的】 転倒恐怖感は高齢者にとって一般的な心理的問題であり,身体機能の低下やADL,IADLの制限のみならず,社会参加に対しても影響を及ぼすことが危惧される.これまでに転倒恐怖感には,歩行能力,バランス能力,起居動作能力,うつ傾向などが関与することが報告されている.しかし,転倒に関する危険要因には,心身機能による内的要因のほかに物理的な環境による外的要因があり,物的な障害が多い場合は転倒恐怖感が強まり,外出をはじめとした社会参加を自粛してしまうことが懸念される.近年の高齢者向けの住宅施策により住環境整備が進められているが,居住様式は和式スタイルと洋式スタイルが混在化しているのが現状といえる.本研究の目的は,高齢者を取り巻く生活環境のひとつである居住様式と転倒恐怖感との関連性について検討することである.【方法】 対象は,在宅生活を継続している要介護高齢者38名(男性12名・女性26名,平均年齢78.1±7.5歳)とした.対象者の条件としては,認知機能に問題がなく,屋外歩行が自立レベルにある者とした.転倒恐怖感の測定は,日本語版fall efficacy scale(以下,FES)を用いた.また身体機能評価として,歩行速度,Berg Balance Scale(以下,BBS),Timed Up and Go Test(以下,TUG),膝伸展筋力,起居動作所要時間(起き上がり・床からの立ち上がり・5回連続椅子からの立ち上がり)を測定した.分析は,FESと身体機能との関係についてSpearman順位相関係数を用いて検討した.また,内閣府政策統括官共生社会政策担当による「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」(2005)の調査項目に準じ,食事・くつろぎ・就寝のスタイルから対象者を居住様式によって和式群18名と洋式群20名に分類し,両群のFESをMann Whitney検定により比較した.さらに転倒恐怖感に関連する因子を検討するため,FESを従属変数とし,FESと有意な相関が認められた項目と居住様式(ダミー変数化)を独立変数とした重回帰分析(Stepwise法)を行った.いずれも有意水準は5%未満とし,統計処理にはSPSS ver.12を使用した.【説明と同意】 対象者には事前に口頭および書面にて本研究の趣旨について説明し,十分な理解を確認した後,書面で承諾を得て実施した.【結果】 FESと身体機能との相関係数は,歩行速度:0.61,BBS:0.65,TUG:-0.63,膝伸展筋力:0.55,起き上がり所要時間:-0.55,床からの立ち上がり所要時間:-0.63,5回連続椅子からの立ち上がり所要時間:-0.52であり,すべての項目において有意な相関が認められた(P<0.01).また,両群におけるFESについて有意な差が認められ(P<0.01),洋式群は和式群よりも転倒恐怖感が強かった.重回帰式は,FES=0.423×BBS-0.434×床からの立ち上がり所要時間+18.12(R²=0.548,P<0.01)であり,FESに関連する因子としてBBSと床からの立ち上がり所要時間が抽出された.【考察】 転倒恐怖感に関連する因子として,BBSと床からの立ち上がり所要時間が抽出された.BBSには床からの物拾い動作をはじめとするダイナミックな動作が含まれ,また床からの立ち上がり動作は重心移動距離が最も長い一連の動作過程であることから,重心移動をより伴う動作ほど転倒恐怖感への影響は大きいことが示された.居住様式はFESの関連因子として抽出されなかったが,和式群と洋式群の群間比較においてFESに有意な差が認められ,さらにFESと床からの立ち上がり動作との間には高い相関が認められた.和式群においては,畳や床の上で食事を摂ったり,くつろいだり,就寝したりしているため,床からの立ち上がり動作をあらゆる日常生活場面で繰り返し行っていることが推察される.その遂行には,洋式スタイルに比較して十分な関節可動性,筋力,バランス能力などが必要とされ,床からの立ち上がり動作は和式スタイルに準じた能力を最も反映していると思われる.本研究において,居住様式が直接的に転倒恐怖感に寄与する因子として採択されることはなかったが,和式スタイルを反映する床からの立ち上がり動作が転倒恐怖感に大きな影響を及ぼしていることから,居住様式の違いは高齢者の転倒恐怖感と関連がある可能性が示唆された.高齢者における転倒恐怖感に着目してアプローチを行う場合は,個々の身体機能やADL,IADLに加えて,居住様式などの住環境をはじめとした社会的物理的環境についても考慮する必要があると思われる.【理学療法学研究としての意義】 理学療法士は,個人の身体機能や活動能力を把握したうえで生活状況に即した居住様式を専門的に適時かつ詳細に提案していかなければならない.転倒予防や介護予防,健康増進といった生活環境支援に携わる我々にとって,転倒恐怖感などの心理的問題についても適切な介入の必要性があることが示唆されたことは意義が大きいと思われる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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