抄録
【目的】 近年、がん患者に対するリハビリテーションの広がりとともに食道がん患者に対して行われる食道切除術周術期リハビリテーションは、術後呼吸器合併症を予防し、術後の回復を促す目的で多くの施設で実施されている。全がん協加盟施設における食道がん患者手術症例の5年相対生存率は47.0%と治療の進歩で向上してきており、速やかに身体機能を回復することが患者のQOLの維持もしくは向上につながると考えられる。近年、高い身体活動量を維持することががん治療後の生存率を向上させることが示唆され、アメリカではアメリカスポーツ医学会によって積極的な癌治療を受けている患者および治療を終了した後の患者を対象とした運動や身体活動に関するガイドラインが作成された。一般に、退院後は時間とともに身体機能・身体活動量が回復していくと考えられるが、食道切除術後患者は術後に食事量が制限され、体重が激減することが避けられないため、日常生活や復職に支障を来すのではないかと考えられる。しかし、食道切除術後患者について退院後の身体活動量を調査したものはない。そこで今回、周術期においてリハビリテーションを実施した患者の退院後1か月時での身体活動量の現状を報告する。【方法】 2011年12月から2012年6月までの間に食道切除術を実施した食道癌患者11名(63.2±7.8歳)を対象とした。退院時より退院後1カ月時まで生活習慣記録機(Suzuken社製KenzライフコーダEX,以下ライフコーダ)を着用させ、退院後1カ月時における身体活動量および3METs以上の活動のみを抽出した強度別身体活動量を算出した。さらに術前と退院後1か月時に、患者の自覚的な身体活動量を調査する方法として、患者自己記入式身体活動量調査票である国際標準化身体活動質問票(IPAQ)日本語版Short Versionを用いて評価した。また、身体機能、健康関連QOLについても評価を実施した。身体機能については、膝伸展筋力と6分間歩行距離を測定した。健康関連QOLについては、EORTC QLQ-C30 Version3を用いて評価した。全ての対象者に、術前から退院時まで継続したリハビリテーションとして、呼吸トレーニング、筋力トレーニング、持久力トレーニングを実施した。術後在院日数は19.5±5.0日であった。統計解析にはSPSSを使用した。身体活動量は術前と退院後1か月時の値を対応のあるt検定で比較した。身体機能については反復測定一元配置分散分析を行い、その後Bonferroni法にて多重比較検定を行った。健康関連QOLにはFriedman検定を用いた。統計学的有意水準は両側5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には口頭および文章にて本研究の主旨および方法に関するインフォームド・コンセントを行い、署名と同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり、京都大学医学部医の倫理委員会の承認を得ている。【結果】 ライフコーダによる退院後1カ月時の平均身体活動量は12.3±7.4METs・h/weekであった。さらに、3METs以上の強度別の結果では、2.5±2.8METs・h/weekであった。術前の身体活動量は質問紙の結果より37.91METs・h/weekであったのに対し、退院1か月時には11.5 METs・h/weekと有意に減少していた。膝伸展筋力は退院時の術前比90%(2.59→2.35Nm/kg)に対して、退院後1か月時には術前比99%(2.59→2.58Nm/kg)と回復していた。6分間歩行距離も退院時は術前比84%(549.0→461.8m)であり、退院1か月時には92%(549.0→504.0m)と改善傾向にあったが、依然として術前値と比較し、有意に減少していた。健康関連QOLではEORTC QLQ-C30の機能スケールで社会生活機能が有意に低下していた。症状スケールでは痛み、呼吸困難、食欲減退、便秘の項目が有意に悪化していた。【考察】 退院後1か月では術前から比較して身体活動量が激減しており、特に3METs以上の中等度の運動が極端に少なく、日常生活において散歩などの運動すらできていないことがわかった。健康関連QOLの結果で明らかとなった痛み、呼吸困難感、食欲減退などがその原因となっている可能性がある。また、身体機能面においては、持久力の改善がみられていなかった。がんサバイバーは、治療後身体活動量を一定以上に維持することで身体機能、QOL、がん関連倦怠感などが改善することが明らかとなっている。今後、身体活動量を維持するための介入が必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 食道がん患者に実施される食道切除術は侵襲が大きい外科手術の一つであり、周術期だけでなく、術後および退院後長期にわたって理学療法士がエビデンスに基づき適切に介入していくことが重要である。本研究はそのような視点を示した点で意義深い研究と考えられる。