抄録
【目的】 新生児・小児高度医療の発展により、永続的に医療的ケア(呼吸器・気管切開・胃瘻等)が必要となる重症な障がいを持つ児(要医療的ケア児)の生存率が高まり、それらの児が増加している。平成23年度長野県内において、在宅で療養をしている18歳未満の要医療的ケア児(在宅療養児)は約100名で、うち人工呼吸器管理を行っている児は約20名である。それ以外に、児の病態や家庭の状況により、1年以上の長期入院で退院困難な児(長期入院児)が各病院で増加している。当院では、急性期治療を終え、病態が安定した児は、原則地元の病院へバックトランスファーし転院を進めているが、地域病院での長期入院児の増加にともない、当院から地域病院への転院が困難な状況になりつつある。そこで当院では平成23年度から地域医療再生基金事業、平成24年度から在宅医療連携拠点事業の採択を受け、県内の在宅医療・リハビリテーション(リハ)の充実と地域連携確立のための各事業に取り組み、入院児の在宅移行に変化が見られたので報告する。【方法】 リハ関連事業では、1.在宅支援チームの地域病院・特別支援学校への派遣、2.オンライン(テレビ会議)利用を含めた患者支援地域連携会議の実施(地域病院・訪問st等)、3.オンライン利用による特別支援学校の自律活動訓練の指導、4.在宅リハ技術研修会の開催、5.地域リハスタッフ研修の受け入れを実施した。当院他事業では、6.在宅支援病棟での在宅移行支援の継続、7.長期入院児等支援コーディネーター(Co)配置の継続、8.情報通信技術(ICT)活用による在宅療養情報の共有、9.小児在宅療育情報センターの開設、10.小児療育マップ・療育情報広報紙の作成を実施した。それら事業による効果の一部として、平成23年度における当院および一地域病院の長期入院児の入院数の変化について検討した。【倫理的配慮】 当院の倫理規定に基づき、個人情報が特定できないよう配慮した。【結果】 平成23年4月から平成24年9月までにリハ関連事業として、次の事業を実施した。1.在宅支援チームの派遣では、当院の医師・看護師・理学療法士をチームとして、4病院へ計10回派遣し、理学療法士はポジショニング・呼吸理学療法・環境調整(移動・在宅)等の技術を伝達した。特別支援学校への派遣は平成24年10月以降に予定された。2.患者支援地域連携会議の実施では、当院の医師・看護師・社会福祉士・作業療法士・理学療法等が参加し、7病院・2訪問看護st・6通園施設・3総合支援センター・3市町村で計36回の会議を実施し(うちオンライン利用7回)、施設間の情報交換を行った。3.特別支援学校の自律活動訓練の指導では、当院の医師・作業療法士・理学療法士が参加し、3学校で計20回、オンラインの利用で学校生徒のポジショニング・環境調整等の指導を行った。4.在宅リハ技術研修会では、当院の理学療法士が講師となり、訪問看護stの看護師・理学療法士、特別支援学校の教諭・看護師を対象に、ポジショニング・呼吸理学療法・移乗動作等の研修会を計4回開催した。本研修会と先述した8.-10.の事業は、当院内に事務局を設けた当院が運営支援する民間団体が企画運営をした。5.地域リハスタッフ研修では、5病院9名を受け入れ、計32回の研修を実施した。本研修は平成19年度からの継続事業であり、14病院・事業所の理学療法士を受け入れた。なお、在宅支援病床は平成21年度に開設、長期入院児等支援Coは平成22年度から配置され、県内の長期入院児の在宅ケア指導やコーディネートを行った。ICT活用による在宅療養情報の共有は、県内他団体利用システムを参考に整備を進めている。これらの事業の実施により、A病院の長期入院児11名のうち4名(発達遅滞:1歳5ヵ月・交通外傷による脊髄損傷:8歳8ヵ月・脊髄性筋萎縮症2名:1歳7ヵ月と2歳2ヵ月)が退院し、重症新生児仮死の児が転院、乳幼児突然性危急事態の児が入所した。また、当院の長期入院児も平成23年4月19名から、同年10月に16名、平成24年3月に12名、同年9月に10名と減少した。【考察】 当院は県内唯一の小児高度専門医療機関で、県内の重症小児を集中的に治療してきた実績から、患者家族や各病院の医療保健スタッフとも当院への依存意識が強い。また県内は面積が広く、交通の便が悪い山間部を多く有することより、小児医療・福祉資源が散在または都市部に偏在してしまい、県内における小児療育・療養の連携を確立しにくい状況がある。県内の在宅医療・リハの充実と連携の確立のための各事業に取り組むことで、長期入院児の在宅移行の流れ(川上から川下へ)が少しずつ拡大し、当院および地域病院の長期入院児が減少した。 【理学療法学研究としての意義】 長期入院児の在宅移行を推進するために各事業に取り組み、リハの役割を遂行することで児の在宅移行が促進できることが示された。