抄録
【目的】肩腱板損傷修復術後患者(以下、術後患者)の肩関節自動運動をする際、肩甲帯の代償運動がしばしば見られ、それを改善するための一要因として肩甲骨の動的な測定は重要である。今回我々は、高性能で簡便な3軸加速度センサ・3軸角速度センサ内蔵の無線動作角度計システム(MicroStone社製MVP-RF8を2個、MVP-DA2-S、以下センサ)を使用し、術後患者肩関節自動屈曲・外転時の肩甲骨可動域測定を行い、我々が以前行った健常人の結果と比較分析した。【方法】対象は、術後患者26例(男性17例、女性9例、平均年齢65歳)とした。測定方法は、基本軸を脊柱と仮定し第7頸椎棘突起の上部・移動軸を肩甲骨棘上部としそれぞれにセンサを固定、術側肩関節自動屈曲3回・自動外転3回を立位・肘関節伸展位で行い、肩甲骨可動域を測定した。肩関節屈曲の最大可動域は、ゴニオメーターで測定した。測定時期は術前(a)、術後4~5週間軟性装具固定後自動運動が始まる術後6週(b)・7週(c)・8週(d)で行った。 解析方法は、無線動作角度測定ソフトウェアからCSVファイルに変換されたものを使用し、肩甲骨動作の3方向(上下方回旋、前後方回旋、前後傾)の波形・角度を算出した。最大肩甲骨可動域・肩関節可動域の比(以下、ROM比)と先行研究の健常人の結果をU-検定にて比較した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には、本研究の趣旨および検査内容について口頭および文書にて十分に説明し同意を文書により得た。【結果】肩関節自動屈曲時の肩甲骨動作の波形は、上方回旋・後方回旋・後傾の動きを示した。肩関節自動屈曲時の肩甲骨上方回旋最大値の平均は、(a)19.6°(b)16.9°(c)21.1°(d)22.7°、後方回旋の平均は(a)17.7°(b)14.9°(c)18.4°(d)20.7°、後傾の平均は、(a)23.5°(b)22.9°(c)28.2°(d)29.9°であった。肩関節自動屈曲最大値の平均は、(a)119°(b)90°(c)106°(d)117°であった。肩関節自動屈曲時の肩甲骨上方回旋のROM比平均は、(a)0.17(b)0.19(c)0.20(d)0.20、後方回旋のROM比平均は(a)0.15(b)0.16(c)0.17(d)0.18、後傾のROM比平均は、(a)0.19(b)0.24(c)0.26(d)0.25であった。肩関節自動外転時の肩甲骨動作の波形は、屈曲時と同様に、上方回旋・後方回旋・後傾の動きを示した。肩関節自動外転時の肩甲骨上方回旋の平均は、(a)16.1°(b)12.4°(c)17.4°(d)19.9°、後方回旋の平均は(a)13.1°(b)12.2°(c)15.0°(d)18.0°、後傾の平均は、(a)17.2°(b)17.2°(c)20.8°(d)24.4°であった。肩関節自動外転最大値の平均は、(a)111°(b)78°(c)95°(d)106°であった。肩関節自動外転時の肩甲骨上方回旋のROM比平均は、(a)0.15(b)0.16(c)0.18(d)0.20、後方回旋のROM比平均は(a)0.12(b)0.16(c)0.16(d)0.18、後傾のROM比平均は、(a)0.15(b)0.21(c)0.21(d)0.23であった。 先行研究の健常人のROM比結果(肩関節自動屈曲時の肩甲骨上方回旋ROM比0.13、後方回旋ROM比0.15、後傾ROM比0.11、肩関節自動外転時の肩甲骨上方回旋ROM比0.14、後方回旋ROM比0.15、後傾ROM比0.11)と術後患者と比較すると、肩甲骨上方回旋・後方回旋は肩関節自動屈曲・外転ともに有意な差はなく、肩甲骨後傾は術前に有意な差はないが術後6・7・8週に有意な差があった(p<0.01)。【考察】肩甲骨上方回旋・後方回旋ROM比は、術前・術後健常人に近い値を示していたが、後傾は健常人よりも大きい値であった。これは、術後肩関節屈曲・外転の最大努力をするあまり肩甲骨後傾の代償運動が強く表れた結果と考える。よって術後肩関節の正常な動きに近づけるためには、肩甲骨後傾の代償運動を抑制し可動域拡大を図る必要性がある。 文献では肩甲骨の上方回旋は40~50°と言われているが、今回の結果は低い値を示したと考えられる。肩甲骨の動きが低く出る要因は、皮膚表面での肩甲骨の動きの測定には限界があることや肩甲骨特有の挙上下制や内転・外転の動きをこのセンサーでは測定できないことによるものだと考える。【理学療法学研究としての意義】術後肩固定を外した後の肩甲骨可動域と肩関節可動域の経時的な変化を測定することは、正常な肩甲上腕・肩甲胸郭関節に対する可動域拡大のための参考になりうると考える。