抄録
【はじめに、目的】当院では理学療法士を含む全職員に学会発表を推奨しているが、統計解析に苦手意識を抱いている職員は多く系統的な統計学教育は確立されていない。そこで職員の統計学に関する現状の知識を把握し教育指針の一助とするため、当院に勤務している理学療法士(以下、PT)、作業療法士(以下、OT)、言語聴覚士(以下、ST)に対してアンケート調査を実施した。その後セラピストを対象に院内勉強会を開催し理解の程度を調べた。【方法】当院に勤務しているPT(30名)、OT(20名)、ST(7名)にアンケート調査を行った。内容は、「養成校の種類」、「臨床経験年数」、「研究や学会発表を行うにあたって難渋すると思う項目3つ」、「統計解析に行き詰った時どうしているか」を記述回答とした。I「養成校で統計学の講義の有無」、II「統計手法を用いた学会発表を行ったことがあるか」、III「収集したデータでグラフを作ったことがあるか」、IV「変数の尺度を理解しているか」、V「対応がある・独立の意味を理解しているか」、VI「標準偏差を理解しているか」、VII「正規分布を理解しているか」、VIII「有意差を理解しているか」、IX「相関を理解しているか」、X「変数に対応した検定方法を選択出来るか」、XI「統計ソフトを用いて統計処理が行えるか」、XII「統計解析の目的を明確にとらえてデータの収集が行えるか」の12項目をYES/NO回答とし、IV~XIIの9項目は勉強会後に同内容のアンケートを行った。非回答箇所は除外した。統計ソフトはMicrosoft Excel 2003を使用しχ2乗検定とマクネマー検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはアンケート調査内容を今学会で使用する旨を説明し同意を得ている。アンケート用紙から得られた情報は個人が特定出来ない様に名義を記号化しPC上で管理した。アンケート用紙はPC入力後速やかに破棄した。【結果】アンケート回収率は90%(51名)、勉強会参加率49%(25名)、勉強会参加者のアンケート回収率は100%であった。「養成校」は3年制専門学校が45%( 23名) 、4年制専門学校が31%(16名)、大学が24%(12名)、「臨床経験年数」は、4.2±2.7年であった。「研究や学会発表を行うにあたって難渋すると思う項目」は、統計解析42回答、テーマの選定37回答、データ収集方法24回答であり、少数意見として倫理上の配慮や時間が無い、研究意欲に乏しいといった意見が聞かれた。「統計解析に行き詰った時どうしているか」は、詳しい人に聞く19回答、統計解析をやったことが無い18回答、学校(養成校)の先生に聞く7回答、本・インターネットで調べる4回答であった。質問I~XIIに関して(YES%/NO%)、Iは94.1(48名)/5.9(3名)、IIは27.5(14名)/72.5(37名)、IIIは76.5(39名)/23.5(12名)であった。以下IV~XII項目は勉強会参加者25名の回答を示す。IVは20/80勉強会後96/4、Vは8/92勉強会後80/20、VIは36/64勉強会後100/0、VIIは16/84勉強会後100/0、VIIIは48/52勉強会後92/8、IXは36/64勉強会後72/28、Xは0/100勉強会後16/84、XIは4/96勉強会後16/84、XIIは0/100勉強会後20/80であった。12項目の質問では職種間、養成校での差は認めなかった。勉強会前後比較では9項目中、XI以外の8項目で有意差を認めた。(X,XII P<0.05、IV,V,VI,VII,VIII,IX P<0.01)【考察】養成校で統計学を履修しているにも関わらず統計解析に難渋するという意見が最も多く聞かれ、統計解析を用いた学会発表を行ったことが無いという意見も全体の1/3近い割合であった。この結果より養成校での学習と実際の研究場面での統計処理とは少なからず乖離が生じており自己学習では充分に補いきれていない。今回、院内セラピストを対象に開催した勉強会の質的検討は行っていないが、1時間程度の勉強会でも標準偏差や変数の尺度、有意差、相関の理解は有意に得られる結果となった。これらの項目の理解は容易に達成されたが、統計ソフトの使い方と多変量解析の理解は今後の課題となってくると考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床に挑むにあたり統計学は理学療法士に必ずしも必要な知識では無いが学会発表や研究論文を読み解くには欠かせない知識である。今研究にて統計学知識の問題点を抽出し、短時間でもある一定の理解が得られることを示すことができた。