理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-04
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ポスター発表
持久的運動前後の高濃度酸素吸入が酸化ストレスおよび乳酸値におよぼす影響
菊本 東陽丸岡 弘伊藤 俊一星 文彦
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抄録
【はじめに、目的】適度な身体活動量の増加や定期的な持久的運動の実施は、運動による活性酸素の発生に対抗するために抗酸化能を増強させ、運動をしていないときでも日常的に活性酸素を除去し、酸化を防止する。その他の効果を含めて、定期的な持久的運動の実施は健康づくりの重要な要素であるとして推奨されている。高濃度酸素吸入の生体におよぼす影響は、運動時および高強度運動後の血中あるいは筋中乳酸値が低下することや短時間最大運動および持久的運動の作業能力を向上させることなどが報告されていることから、運動時の疲労回復関連効果を推測できる。しかし、高濃度酸素吸入のタイミングの違いが酸化ストレスや運動による代謝産物におよぼす影響を検討した報告は少ない。本研究の目的は、長期間の持久的運動時の高濃度酸素吸入のタイミングの違いが酸化ストレスと乳酸値におよぼす影響ついて検討することとした。【方法】対象は、Wistar系雄性ラット(4 週齢)21 匹とし、無作為にコントロール群(CON群:n=7)と運動前高濃度酸素吸入群(HBT群:n=7)、運動後高濃度酸素吸入群(HAT群:n=7)の3 群に区分した。持久的運動装置は、動物用トレッドミル(TM)を使用した。運動条件は全群共にTMの運動強度を速度20m/min、傾斜10 度に設定し、1 日1 回30 分、週3 回の頻度で連続4 週間走行させた。なお、ラットは1 週間の馴化飼育中にTMに慣らせるために低速度で3 回走行させた後に本研究を実施した。高濃度酸素吸入は、高濃度酸素発生装置(IST社製酸素発生装置NOZOMI OG-101、28% O2、3L/min)を使用した。HBT群に対しては運動負荷前に、HAT群に対しては運動負荷後に高濃度酸素を装置付属のノズルに接続した麻酔ボックス内にラットを放し、30 分間吸入させた。測定は運動負荷期間前後にTM走行時間、酸化ストレス防御系および乳酸値の変化について実施した。TM走行時間の変化量の測定は、TMの運動強度を速度25m/min、傾斜20 度とし、運動の終了基準はTM走行面後方の電気刺激の間隔が5 秒以内となった時点とした。酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製 FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM)と抗酸化能(BAP)を測定し、d-ROM/BAP比(RB比)を算出した。乳酸値の測定はラクテート・プロ(アークレイ社製LT-1710)を使用した。なお、酸化ストレス防御系および乳酸値の測定には、尾静脈を一部切開し、採血を行い、遠心分離後の血漿を用いた。本研究において得られた数値は平均値±標準偏差で表した。有意差の検定は対応のあるt検定および一元配置分散分析を実施し、有意水準5%で処理した。【倫理的配慮】本研究は本大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号4)。【結果】(1)TM走行時間の変化 全群ともにTM運動前後の比較では有意なTM走行時間の延長を認めた(p<0.01)が、平均変化量の各群間の比較では有意差を認めなかった。(2)酸化ストレス防御系の変化 d-ROMについて、CON群、HAT群で運動負荷期間前後の比較では有意な上昇を認めた(p<0.01)。平均変化量の分散分析の結果では、F(2,18)=3.67, p<0.05 となり、グループの主効果を認めた。しかし、HSD法による多重比較の結果では、いずれの群間にも有意差を認めなかった。BAPについて、運動負荷期間前後および各群間の平均変化量の比較でも有意差を認めなかった。RB比について、運動負荷期間前後および各群間の平均変化量の比較でも有意差を認めなかった。(3)乳酸値の変化 乳酸値について、運動負荷期間前後および各群間の平均変化量の比較でも有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果から、TM走行時間の有意な延長は、TM走行時間の延長は運動トレーニングの生理学的効果によるものであり、高濃度酸素吸入はTM走行時間に影響しないものと考えられた。酸化ストレス防御系において、運動負荷前の高濃度酸素吸入は酸化ストレス度の抑制作用を認めたものの、酸化ストレス防御系全体に対しては吸入のタイミングにかかわらず高濃度酸素吸入は影響しないものと考えられた。乳酸値について、運動負荷期間前後、変化量の比較でも有意差を認めなかったのは、ラット個体間のばらつきが大きいことが考えられた。【理学療法学研究としての意義】理学療法の対象者は、その疾病や障害特性により、心肺持久力や活動性が低下している場合が多く、通常の運動負荷であっても酸化ストレスは容易に上昇することが推測できる。本研究で示した、長期間の持久運動負荷による酸化ストレスや代謝産物への影響を減少させる方法の検討は低体力者に対するより効果的な運動負荷方法を設定する上で有意義と考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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