抄録
【はじめに】肩関節は大きな自由度を持たせるために、上腕骨頭と浅い関節窩により形成され、関節の接合面は筋をはじめとする軟部組織で構成されている。不安定な関節の動的安定性を保証するうえで回旋筋腱板を中心とした内外旋筋が重要な役割を果たしている。肩関節疾患において、鏡視下腱板縫合術(以下ARCR)による術後成績は早期に関節可動域の獲得および筋力の回復が期待できるといわれており、これまでに良好な成績が諸家により報告されている。先行研究により、矢貴らは、術後早期の可動域回復良好因子として利き手を報告している。しかし術側の違いが筋力回復過程に及ぼす影響には十分に検討なされていないのが現状である。今回ARCR術後、術側利き手・非利き手の違いが筋力の回復に影響するかを調査したので報告する。【方法】〔対象〕当院で2011年6月から2012年2月までに腱板断裂に対して、ARCRを施行した症例中、術後3ヶ月、6ヶ月時に肩内外旋筋力評価を行い経過観察可能であった22症例とした。〔方法〕患者からの聴取により利き手、非利き手を決定した。利き手群13例(右13肩 左0肩 平均年齢71.3歳±7.5歳 男性9名 女性4名)非利き手群9例(右2肩 左7肩 平均68.7歳±8.9歳 男性6名 女性3名)の2群に分けた。肩内外旋等速性筋力測定は、Biodex System3(Biodex社.USA)を使用した。計測肢位は肩関節屈曲50°外転30°外転位の肩甲骨面上の座位にて測定した。角速度計測は60deg/sec、180deg/secとし肩関節内外旋運動を各々60deg/secにて5回180deg/secにて10回実施し、筋力を測定した。筋力値はピークトルクを体重で除した値を使用した。上記の計測を3ヶ月時、6ヶ月時にて行った。利き手群、非利き手群間の3ヶ月、6ヶ月における肩内外旋筋力の特徴を示すために1.3ヶ月、6ヶ月時における肩関節内外旋筋力の筋力値2.肩関節内外旋筋力の変化率(6ヶ月の筋力を3ヶ月の筋力で除した値)を用いた。統計学的検定には、2標本の差の検定(t検定)を行った。有意水準はp=0.05とし、すべての統計解析のために、R2.8.1を使用した。【倫理的配慮】厚生労働省が定める「臨床研究に関する倫理指針」に基づき診療情報は匿名化したうえで後方視的なデータを収集・分析した。また本研究は研究内容や倫理的配慮に関してヘルシンキ宣言に基づいた当院倫理委員会の承認を受け実施された。【結果】3ヶ月、6ヶ月時における利き手群、非利き手群間の内外旋筋力60deg/sec、180deg/sec筋力値は有意な差はなかった。また、3ヶ月、6ヶ月での肩内外旋筋力の変化率も有意な差がなかった。【考察】肩関節腱板機能において利き手、非利き手の筋力の回復の特徴を客観的に評価する一方法として、等速性筋力測定器による筋力評価を行った。今回の結果では、3ヶ月、6ヶ月時の利き手と非利き手における肩関節内外旋筋力60deg/sec、180deg/secでの筋力値に優位な差はなかった。また3ヶ月、6ヶ月での肩関節内外旋筋力の変化率にも優位な差がなかった。矢貴らは、術後2週目における可動域制限の関連因子として、術側の違いの報告があり、この可動域制限は12ヶ月経過後も有意な差があると報告がある。また肩関節可動域制限が筋力回復を阻害するという報告がある。利き手の損傷は、日常生活を送る上で、使用頻度は高く、左右非対称である動作も多いため筋力回復過程にも影響を及ぼすと考えたが今回の結果からは得られなかった。これらの理由として先行研究に比べ対象者の年齢が高齢であるために労働や活動性が低いことが予想される。そのためこれら対象群において筋力の回復には利き手、非利き手の影響は少ないと考えられた。今回のように比較的高齢である場合、筋力の回復過程の関連因子として、利き手、非利き手に優位差はないためその他因子の影響が考えられる。筋力回復の傾向性は年齢や断裂サイズなど他の因子と検討することで、検討の余地があると考えられる。【理学療法研究としての意義】ARCR術後利き手、非利き手という術側の違いが筋力回復に影響するか等速性筋力評価を用いて計測したが今回の対象者において有意な差は得られなかった。今回のような対象群において筋力の回復過程の関連因子として、利き手、非利き手に優位な差はないため、その他因子の影響が考えられる。