これまで、我々は到達把持運動の把持成分をモデル化してきたが、移動成分の制御メカニズムについては説明できていない。一般的に、ヒトの到達運動は左右対称なベル型速度プロフィールを生成するが、到達把持運動では速度ピークは運動の前半に現れる。このような特性は直径が小さな目標点への到達運動にも見られ、これまでの到達運動に関する最適化モデルでは説明されていない。本研究では、到達運動の速度プロフィールをベータ分布でモデル化し、カルマンフィルタを用いた到達時の予測誤差分散および運動指令によるエネルギー消費を重ね合わせたコスト関数を最小化することで、分布パラメタの最適化を試みた。その結果、コストに対する予測誤差分散の寄与が大きい場合には、ピークが運動の前半に見られる速度プロフィールが得られた。この結果から、到達把持運動の移動成分の制御においても、把持成分と同様に予測精度が重要であることが示唆された。