抄録
想起手がかりの特定性が自伝的記憶の検索に与える影響を検討するため、大学の講義を利用し、10週間に渡り、毎週提示する特定性の低い刺激と2回だけ提示する特定性の高い刺激とを作成した。これらを用いて、自伝的記憶を思い出させ、意図的な想起か否かを自己評定させる実験を行った。その結果、特定性の高い刺激では低い刺激よりも意図的想起の比率が高く、特定性の低い刺激では何も想起しなかったという反応の比率が高かった。特定性の高い刺激は、無意図的想起をもたらしやすいと同時に意図的想起をも駆使して、より詳細に自伝的記憶を検索するのではないかと推測された。また、特定性の低い刺激は、よくある刺激であるとも言え、刺激が与えられるたびに想起していると、他の認知活動の妨げとなる恐れがある。そのため、特定性が高まるつれ、検索自体を控えるようになるのではないかと推測された。